本記事は、内藤 誼人氏の著書『仕事は心理戦が9割』(明日香出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

仕事は心理戦が9割
(画像=Keopaserth/stock.adobe.com.jpeg)

「人の心を読む能力」は、いくらでも鍛えられる

● ゲームを使って6週間で身につける

人の心を読む能力というものは、筋肉トレーニングのように鍛えることは可能なのだろうか。それとも、スポーツをやっているアスリートたちが体力や筋肉を鍛えるようには、うまくいかないのだろうか。

結論からいえば、人の心を読む能力は、筋肉を鍛えたり、英会話やピアノを習ったりするのと同じように、鍛えることは可能だ。

米国アラバマ大学のイングリッド・ホプキンスは、高機能自閉症(知的障害をともなわない)の24名と、低機能自閉症(知的障害をともなう)25名に、週2回、6週間のトレーニング(全部で12のセッション)を行うことで、トレーニングの効果を確認している。
ホプキンスが使ったのは、「FacesSay」というコンピュータゲームだ。このゲームでは、顔のどこに注目すれば相手の感情を読むことができるのかを学べるのである。
実験参加者たちは、ゲームで遊びながら楽しく学んだわけであるが、6週間後には相手の感情をきちんと理解できるようになり、社会的なやりとりもうまくできるようになったという。

● 「楽器」を習うように学ぶ

「FacesSay」は有料のコンテンツであるが、実際に効果が確認されているという点では、オススメである。
遊びながら他人の心が読めるようになるのは、まことにありがたい。自分のコミュニケーション・スキルを伸ばしたいと思うなら、こういうゲームをやってみるのもよいだろう。

私が勤務先の大学で担当しているのは、「対人スキルトレーニング」という科目である。人間関係のスキルは、楽器を習うように学ぶことができる
実際、学生の多くは、第1回目の講義では、相手の目を見つめると照れてしまったり、自分の気持ちをうまく相手に伝えることができなかったりするのだが、半年もすると「これが同じ人なのか」と見違えるほどに、対人スキルは向上している。学生の能力が向上していくのを見るのは、講師として非常に嬉しい。

● 座学+ワークショップがオススメ

コミュニケーションに関するセミナーや講演会は、探せばいくらでもあるので、そういうところに参加してみるのもよいだろう。
できれば、座学だけでなく、ワークショップ形式で学べるものが望ましい。話を聞くだけでなく、実際に自分で試したほうがトレーニングの効果は高くなるからである。

「他人の心は、トレーニング次第で読めるようになるのですよ」とお話しすると、驚く人が意外に多いのだが、人間関係のスキルに関しては、トレーニングによって鍛えられることを示す論文はいくらでも見つかるので、きちんとした科学的な根拠もあると断言できる。ぜひ各種のセミナーなどに参加して、自分のスキルを磨いてほしい。

カウンセラーのような観察力は誰でも身につく

● カウンセラーでなくても、人の心は読める

カウンセラーやセラピストは、30秒ほどクライアント(患者さん)を観察するだけで、どんな悩みを持っているのか判別できる。
米国マサチューセッツ州にあるタフツ大学のマイケル・スレピアンによると、臨床家は、患者の表情や声の調子から、パーソナリティ障害、不安、抑うつ、自殺企図などを推測することができるそうである。

またスレピアンは、離婚、虐待を受けているかどうかも、ちょっとの観察でわかるとも指摘している。
「カウンセラーやセラピストは、人の心を読む専門家なのだから簡単にできるのだ」と思われるかもしれないが、それは違う。
じつのところ、特殊な訓練を受けたことのない一般人でも、もちろん読者のみなさんも、相手を読むことはできるのである。これは本当の話である。

● 5秒で犯罪者を見抜く

米国ジョージア州にあるエモリー大学のキャサリン・フォウラーは、40名の普通の大学生に、刑務所に収監されている96名の囚人のインタビュービデオを見せてみた。
なお、犯罪事件について語っている部分は削除し、ごく普通に話している部分だけを使った。そうしないと、犯罪者であることが易々とバレてしまうからである。

なお、大学生がそのビデオを視聴する時間は、5秒、10秒、20秒に設定しておいた。5秒など、ほんの一瞬だ。
にもかかわらず、たった5秒のビデオでも、大学生はかなりの高確率で反社会的な人物なのか、性格が凶悪かどうかを見抜くことができたという。
相手が危険な人物なのかどうかを見抜けないと、暴力を振るわれたり、ヘタをすると殺されてしまったりする。そのため、私たちは危険な人を見抜けるように進化してきたというのがフォウラーの分析だ。
「なんとなく危ない人だ」と、私たちは直感的に見抜くことができるのである。

● まずは「わかろうとする」ことから

危険な人かどうか以外のことも、わりと正確に見抜くことができる。
ハーバード大学のナリーニ・アンバディは、13人の大学の先生の講義ビデオを見せて、その先生の人柄や教え方のうまさなどを推測してもらった。ただし、ビデオを見せる時間は30秒である。
その結果、たった30秒しか見ていないのに、その先生の人柄や教え方のうまさの推測は、実際にその先生の講義を半年にわたって受けた学生が、学期末に行う評価と一致していたのである。

私たちは、だれでもある程度までは、特別な訓練を受けなくとも人の心を読むことはできる。もし「他人の気持ちがわからない」というのなら、それは自分がわかろうとしていないだけである。人に興味を持ち、しっかりと相手のことを観察するクセをつければ、だれでも相手の心は読めるようになる。

仕事は心理戦が9割
内藤 誼人(ないとう・よしひと)
心理学者。立正大学客員教授。有限会社アンギルド代表。慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースにした心理学の応用に力を注いでおり、とりわけ「自分の望む人生を手に入れる」ための実践的なアドバイスに定評がある。『図解 身近にあふれる「心理学」が3時間でわかる本』『面倒くさがりの自分がおもしろいほどやる気になる本』『気にしない習慣 よけいな気疲れが消えていく61のヒント』(以上、明日香出版社)など、著書多数。

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