本記事は、内藤 誼人氏の著書『仕事は心理戦が9割』(明日香出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

仕事は心理戦が9割
(画像=cosma/stock.adobe.com.jpeg)

メールだと、人は平気でウソをつく

● 記録として残ってしまうメールなのに……

メールはまことに便利なビジネスツールではあるものの、大事な要件について語らなければならないときには、対面のほうがよいかもしれない。なぜかというと、メールでのやりとりでは、相手は平気でウソをついてくるからである。
メールのほうがきちんと記録も残るので、そんなにウソをつかないのではないかとも考えられるが、現実にはその反対で、メールのほうが人はウソをつくのである。

マサチューセッツ大学のマチチヤフ・ジンブラーは、110組の同性のペアを作ってもらい、「相手に気に入られるように」という条件で15分間のやりとりをしてもらった。ただし、半数は対面で、もう半数にはメールでやりとりをしてもらった。
すると、メールでやりとりをする条件のほうが、対面でやりとりする場合に比べて4倍以上もウソをまじえることがわかった。
「対面で相手に見つめられながら話すとき」には、ウソを話すことに躊躇してしまう人でも、メールだと「まぁ、いいか」とハードルが下がってしまうようだ。

● メールではウソに対する罪悪感が薄れる

たいていの人は、ウソをつくときに、罪悪感というか、やましさのようなものを感じてしまうものである。ところが、メールの場合には、ウソをついてもやましさを感じないという報告もある。

米国シカゴにあるデポール大学のチャールズ・ナックインは、メールも手紙も、どちらも文字のみのコミュニケーションという点では同じだが、メールだと人はウソをつき、しかもウソをつくことにまったく抵抗を感じなくなることを実験的に明らかにしている。

ナックインは48名の大学生にペアを作ってもらい、メールで、あるいは紙と鉛筆を使ったやりとりで、模擬交渉ゲームをやってもらったのだが、自分にとって都合のよいウソをつく割合は、メールの場合だと92.31%、手紙だと63.64%という結果になった。
さらにナックインは、ウソをついたことに対しての感情も尋ねてみたのであるが、手紙の場合にはウソをつくことに抵抗があったのに、メールでのやりとりをするグループでは、「悪いことをしたとも思わない」と答える人が多かった

● 対面にはメリットがたくさん

メールはとても便利なツールであるから、ビジネス上のやりとりはメールが主体になっているのではないかと思う。けれども、相手にウソをついてほしくないのであれば、打ち合わせはできるだけ対面でしたほうがよい。ウソをつかれて気分のよい人はいないと思うからである。

対面のメリットは、「相手がウソをつきにくくなる」というだけではない。メールだけのやりとりは、どうしてもビジネスライクになりがちで、相手と親密な関係を結ぶことはできない。
その点、対面でやりとりしていると、プライベートに近い印象をお互いに感じるので、はるかに親しくなることができるのである。

とるに足りないウソなら見逃してあげる

● ウソには「かわいいウソ」もある

すべてのウソが決して悪いものではない。ウソには2種類あって、こちらを陥れるような悪質なウソもないわけではないが、とるに足りないウソというものも現実にはけっこうある。そういうウソであれば、笑って見過ごしてあげるくらいの器の大きさを持とう。

コーネル大学のキャトリーナ・トーマは、Match.comや、Yahoo PersonalsやAmerican Singlesや、WebDateといった4つの主要なオンラインデートサービスに登録している人80名(男女40名ずつ)に実験室に来てもらい、写真を撮らせてもらった。次に、その写真と、彼らがオンラインデートサービスに登録している写真を比較してみた。49名の判定員に、それぞれの写真の魅力に得点をつけてもらったところ、デートサービスに登録している写真のほうが、はるかに魅力的に見えることがわかった。

魅力的に見えるようなポーズをとったり、写真を修正・加工したりしていたのである。また、プロフィールでもウソをついていることがわかった。体重をやや軽めにしたり、身長をサバ読んだりしていたのである。
私たちは、自分を少しでも魅力的に見せるために、そういうウソをつく。けれども、こういうウソは、「かわいいウソ」であって、目くじらを立てて怒る必要はない。

● ウソが「やる気」に火をつけることもある

また私たちは、大言壮語のウソをつくこともある。自分の実力に見合っていない仕事でも、「私、できますよ」とつい言ってしまうこともあるのだ。自分を大きく見せたいためだろう。

こちらのウソについても、そんなに腹を立てる必要はない。「ウソから出たまこと」という表現もあるが、人は大ぼらを吹いてから必死になって仕事に取り組み、ウソを本当のことにしてしまうこともあるからである。
ノース・イースタン大学のリチャード・グラムゾウは、自分の成績についてウソを答える学生ほど、概してその後の成績が上昇することを突き止めた。しかも、その成績の上昇は、自己報告したときの成績を反映することがわかった。

「次のテストでは、100点をとれますよ」とウソをついた学生ほど、その後、必死に猛勉強し、現実に満点をとったのである。
スティーブ・ジョブズにも、ビル・ゲイツにも、創業間もない頃には、完成してもいない商品を堂々と売り込み、契約を決めてから、必死になって商品を開発したというエピソードが残されている。
まだできていない商品を売りつけるのだから、普通に考えれば詐欺である。けれども、そのあとできちんと開発して納品したわけであるから、こういうウソについても、腹を立てなくてよいのではないかと思われる。

● 人間らしいウソには、大らかな心で対応する

人は、自分を魅力的に見せたいとか、大ぼらを吹いて自分を鼓舞したいとか、さまざまな理由でウソをつくことがあり、そのすべてが非難されるべきでもない。
ウソの内容にもよるだろうが、「まぁ、今回はいいか」と許してあげたほうがいいウソも、けっこうあるのである。

仕事は心理戦が9割
内藤 誼人(ないとう・よしひと)
心理学者。立正大学客員教授。有限会社アンギルド代表。慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースにした心理学の応用に力を注いでおり、とりわけ「自分の望む人生を手に入れる」ための実践的なアドバイスに定評がある。『図解 身近にあふれる「心理学」が3時間でわかる本』『面倒くさがりの自分がおもしろいほどやる気になる本』『気にしない習慣 よけいな気疲れが消えていく61のヒント』(以上、明日香出版社)など、著書多数。

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