この記事は2024年7月8日に「第一生命経済研究所」で公開された「トランプ関税25%へのファーストインプレッション」を一部編集し、転載したものです。


トランプ関税リスクにさらされる日本株、年末にかけ上値は重く
(画像=somchairakin/stock.adobe.com)
  • トランプ大統領は7月7日、日本に対して25%の相互関税を8月1日より適用すると発表した。これまで猶予期間として相互関税は10%の水準にとどめられてきたが、8月以降はこれを引き上げる意向を示した。なお、品目別関税(自動車25%、鉄鋼・アルミ50%)については現状から変わらない見込み。

  • 筆者はこれまで、品目別関税(自動車25%、鉄鋼・アルミ50%)は引き続き賦課、相互関税は上乗せ分の撤回により10%で交渉がまとまるとの前提のもと、日本の実質GDPへの下押しは▲0.4%~▲0.5%Ptと想定していた。これが仮に相互関税が25%となる場合、下押しは▲0.7%Pt程度へ拡大することが想定される。この場合、日本が景気後退に陥る可能性が高まる。

  • もっとも、今回の措置を受けて徒に悲観的になることは避けたい。もともと日本に対して4月2日に提示された相互関税率は24%であり、交渉期限である7月9日までに交渉がまとまらなければこの関税率が適用される予定だった。今回新たに提示された25%という数字はこれとほとんど変わらず、日本が置かれた状況が追加的に悪化したわけではない。実質的には交渉期限が3週間程度延長されたと考えることが可能だ。

  • トランプ大統領としても、対日交渉がまとまらず、日本に対して高い関税を賦課するだけでは益がない。日本からの譲歩を可能な限り引き出した上で、関税率はある程度引き下げるというのが本心だろう。日本としても、これまで参院選前に大幅な譲歩を行った内容で決着することは避けたかったとみられ、交渉が進みにくかった面もある。交渉期限が参院選後まで実質的に延期されたことで、今後は交渉のスピードが増すとみられる。筆者は引き続き、品目別関税(自動車25%、鉄鋼・アルミ50%)は賦課、相互関税は10%で交渉がまとまるとの想定をメインシナリオとしたい。

  • とはいえ、今後も難題は山積みだ。8月1日まで期限が延びたとはいえ、残された時間は多くない。仮に参院選で与党が過半数を維持し、石破政権が継続する場合であっても、この短い期間で双方が満足できる決着に至るかどうかは定かではない。また、仮に与党が過半数を維持できず、石破首相の進退問題に発展するような場合、交渉は一時的にストップすることになる。この場合、8月1日までの交渉妥結は困難だろう。日本はさらなる交渉期限の延期を要請することになるとみられるが、これを受けるかどうかはトランプ大統領次第だ。期限を延長して引き続き交渉を行う可能性もある一方、対日圧力を強めて譲歩を引き出すためにいったん25%の相互関税を発動するという選択肢をとることも否定できない。最終的には何らかの形で交渉がまとまり、関税率は引き下げられるとみているが、その過程で大きな混乱が生じることは十分あり得るだろう。今後もトランプ大統領に振り回され続ける状況が続きそうだ。

第一生命経済研究所 シニアエグゼクティブエコノミスト 新家 義貴