本記事は、匠 英一氏監修の著書『すぐに使えるビジネス教養 心理学』(フォレスト出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

すぐに使えるビジネス教養 心理学
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情報伝達はリアルよりeメール(SNS)の方が優れているのか?

テキストが思考を整理し、伝達の精度を高める

大学生の早瀬は、ゼミの議論になると発言がうまくまとまらず、相手の表情を気にして言葉を飲み込んでしまうことがありました。
しかし、就職活動で企業とメールをやり取りする中で、徐々に自分の考えを整理して伝えられるようになります。メールでは文章を推敲でき、相手の反応に左右されずに落ち着いて表現できるからです。
ある日、早瀬はゼミの議論に先立って自分の意見をメールで共有しました。すると議論はスムーズに進み、「論点が明確だ」と評価されました。
本人は「冷たい印象がある」と感じていましたが、実際には内容理解は高まっていました。
さらにグループワークでも、チャットの方が誤解が少ないことに気づきます。
これは、コミュニケーションの形式が変わることで、思考の整理と情報処理の仕方が変化した結果だといえます。

多重情報処理モデルが示す“主観と客観のズレ”

この現象は「多重情報処理モデル(multiple resource theory)によって説明できます。対面の場では言語・視覚・聴覚など複数の資源を同時に使って情報を多重に処理しますが、表情や声のトーンなど多くの情報が流れて注意が分散しやすくなります。一方、メールやチャットは言語内容に集中や確認もしやすく、情報の正確な理解につながります。
国内研究でも情報の再生率はメールが最も高く、対面はそれより低い結果が示されています(国立情報科学研究所,2021)。また、テキストの方が誤解が少ないと感じる傾向も報告されています。
しかし興味深いのは、主観的には「対面の方が伝わった」と感じる「主観的鮮明性バイアス(vividness bias)」が高いことです。
これは、表情や声が感情的手がかりとなり、「理解した感覚」を強めるためです。
つまり、対面は“伝わった気がする”コミュニケーションであり、テキストは“正確に伝わる”コミュニケーションだといえます。
この主観と客観のズレを理解することで、状況に応じた適切なコミュニケーション手段の選択が可能になります。

すぐに使えるビジネス教養 心理学
(画像=すぐに使えるビジネス教養 心理学)
すぐに使えるビジネス教養 心理学
匠 英一(たくみ・えいいち)
和歌山市生まれ。日本ビジネス心理学会副会長。デジタルハリウッド大学(元)教授。
1990年東大大学院教育学研究科を退学後、同年には東大の医学系研究者ら共にとベンチャーの(株)認知科学研究所を創設し、東大医学部公衆衛生研究室にてストレスと創造性の研究成果を事業化。
それ以後は95年に通信機器メーカにて営業・事業開発の部長職に就き、アップル社やNEC、住友3M、NTTなど100社以上のコンサル・研修業に従事。
20代の学生時代より教育改革のために私塾「エミール」設立、東進スクール研究所顧問、eラーニングの(株)デジタルナレッジ顧問や販売ソフト企業の非常勤取締役など歴任する。
他に公的な業務としては、早稲田大学IT経営戦略研究所客員研究員、立正大学心理学部、医系大学の非常勤講師などを歴任。
また、CRM協議会(初代事務局長)など15件の業界団体を自ら創設して新しいビジネスモデル創りを推進。
現在は主に「ビジネス心理検定」の資格普及と、AI活用の思考法の教育・コンサル業に従事。
著作には『サクッとわかるビジネス教養;心理学』(新星出版社)、『ど素人でもわかる心理学の本』(翔泳社)、『ビジネス心理学』(経団連出版)など60冊ほど。
TVでも「ナカイの窓」等でレギュラー出演・企画し、「しぐさ行動分析」の専門家で知られる。

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