本記事は、柏木 吉基氏の著書『説得力が劇的に上がる 数字の伝え方』(フォレスト出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

説得力が劇的に上がる 数字の伝え方
(画像=Yurgentum/stock.adobe.com)

「数字= 絶対の事実」という思い込みを捨てる

数字は客観的な事実や、動かしようのない真実を示すものである。

ビジネスの現場で、私たちはこの言葉を疑いようのない真理として受け容れてしまいがちです。しかし、果たしてそれは本当に正しいのでしょうか。
結論から言えば、数字から得られる情報は、「(たまたま自分が入手した)そのデータという枠の中に、何が記録されているか」を正確に示すかもしれませんが、その記録された内容が現実世界の「事実」や「真実」をすべて網羅しているかどうかは、まったくの別問題です。

この認識のズレが、多くの「数字に基づいた誤った判断」を生む温床となっています。

× 「お客様満足度の平均スコアが下がったため、サービス品質に問題が生じていると考えられます」
〇 「直近3カ月のアンケート回答者の範囲内では、満足度スコアが低下しています。ただし、回答率は顧客全体の5%に留まっており、かつ現場のヒアリングでは良好な評価も得られています。この数字が顧客全体の声を代表しているかどうか、検証が必要です」

数字とは、いわば「撮り方」によって印象が激変する写真のようなものです。
カメラのレンズや倍率選び(対象の絞り込み)やシャッタースピード(期間の切り取り)、そしてアングル(基準や指標の取り方)を変えれば、同じ被写体を写していても、その写真の印象はまったく異なります。それでも、手持ちの数字からは「何かしら」言えてしまうのです。

「×」のケースをご覧ください。
手元にあるデータから導き出された「スコア低下」という結果に対し、何の疑いもなく「サービスの問題」という結論を直結させています。確かに、その限定的な数字の中だけであれば、論理的な不整合はないかもしれません。
しかし、仮にこのアンケートの取得期間を2倍に延ばしてみたらどうなるでしょうか。
あるいは、回答を拒否したサイレント・マジョリティ(物言わぬ多数派)の声を含めたらどうなるでしょうか。
もしかすると、満足している顧客はわざわざアンケートに答える手間をかけず、不満を感じたごく一部の顧客だけが熱心に回答した結果、スコアが押し下げられただけかもしれません。それでも、手元に「数字」という形になって現れてしまうと、それはあたかも動かしがたい「真実」かのような顔をして、私たちの判断を狂わせます。

特定の期間や対象者、限定的な前提条件の中で得られた「断面」にすぎない結果を、あたかも普遍的な「事実」や「真実」として一般化して語ってしまうこと。そこには数字を用いたコミュニケーション上の大きなリスクが潜んでいます。

それに対して「〇」のケースは、数字が示す結果を認識しつつも、その「外側」にある可能性に目を向けています。「どのような前提条件(フレーム)で切り取られた数字なのか」を自覚し、それを相手に明示する。
数字という「不完全な断片」を扱うとき、その不完全さを理解した上でコミュニケーションすることこそが、より「誠実」かつ「説得力」を高めるコミュニケーションのあり方ではないでしょうか。

そのためにも、「正しい数字」を探すのではなく「納得感のある前提」を提示することを強く意識したいものです。絶対的な正解がないからこそ、なぜその前提を選んだのかという「意図」や「意思」を伝えることが武器にもなることでしょう。

説得力が劇的に上がる 数字の伝え方
柏木 吉基(かしわぎ・よしき)
データ&ストーリーLLC代表。横浜国立大学 非常勤講師、多摩大学大学院ビジネススクール 客員教授。
慶應義塾大学理工学部卒。米国Emory大学院(MBA)修了。日立製作所にてセールスエンジニアとして技術営業に従事した後、日産自動車にて海外マーケティング・セールスや組織開発を担当。
2014年に独立し、「データ活用」を武器にした問題解決トレーナーとして、年間約30の企業・自治体、のべ1,500人以上/年に対しスキル育成・コンサルティングなどを展開。実務に裏打ちされた具体的思考法や手法で成果を出す指導に定評がある。
二児の父。世界130カ国以上を訪問、国内では東海道五十三次を踏破。FMラジオパーソナリティも務める。
著書にベストセラー『「それ、根拠あるの?」と言わせない データ・統計分析ができる本』(日本実業出版社)ほか国内外で多数。

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