トヨタ自動車 <7203> は1月5日、燃料電池車に関連する約5,680件もの特許をすべて無償で提供すると発表した。この発表を受けて、他の自動車会社からは驚きと賞賛の声が挙がっている。燃料電池車を実用化し市販しているのは、世界でトヨタだけであり、先行の利を敢えて取らずに普及への加速を選択した形だ。
トヨタが燃料電池車の開発にかけた投資額は計り知れないが、かなりの高額になることは確かである。それを無償で技術を提供することにしたのは、世界への普及を進めることの方がむしろ投資を回収できると判断したからだろう。
かつての日本のガラパゴス携帯のように、日本でしか使えないような製品では、グローバル市場では通用しない。ましてや、燃料電池車の場合、世界中に水素ステーションが普及しなければ、どんなに優れた自動車であっても売れない。したがって、特に海外の自動車メーカーに早く燃料電池車を作ってもらい、インフラ整備に弾みをつけたいというのが本音だろう。
つまり、家電製品のように商品を単独で使用できるものの場合、新商品をいかに早く市場に出すかが勝負になるが、燃料電池車のようにインフラ整備が必要なものについては、インフラが整備の普及が販売の鍵を握る。また、インフラ整備の普及を早めるためには、燃料電池車を販売する自動車メーカーが多くなければならないという関係にある。もし、トヨタしか燃料電池車を販売しない場合、アメリカやユーロ諸国は積極的に水素ステーションの整備に力を入れることはない。どんなに環境に良いと言っても自国の自動車メーカーを圧迫するような政策をとることはできないからである。
だからこそ、トヨタとしては、燃料電池車にかかる特許技術を無償で提供してでも、世界中の自動車メーカーに燃料電池車を作ってもらい、各社に販売攻勢をかけてもらいたいと考えているのだ。そうすることで、各国政府あるいは民間事業者がインフラ整備に積極的に乗り出してくると見込んでいるのである。
なお、特許技術の無償提供のもう一つの側面として、水素ステーションの規格の統一化の狙いもある。水素ステーションの規格が各国バラバラになると、自動車メーカーとしては、その国の規格に合わせる必要がある。そうなると、製造コストがかかるだけでなく、仕様自体の変更を余儀なくされる場合もある。せっかく多額の費用をかけて新たな規格を作り出した以上、その規格がグローバルスタンダードになるようもっていく必要がある。そのため、水素ステーション関連の70の特許については、無期限で無償提供されているのである。