前回 はシンガポールの不動産市場の概観について説明を致しましたが、今回はもう少し踏み込んでみていきたいと思います。

現状のシンガポール不動産マーケットが高いのか安いのかという事を突き詰めて考えても当然答えが簡単に出るはずはなく、そしてこの思考プロセスは他の投資を考えるプロセスとそう変わるはずはないように思われます。ただ、この投資判断が特異なのは、株式とか債券を買う時では考えられないレバレッジを当然の如く伴うからに他ならず、そしてこの国の不動産は持っておけば必ず最終的には上がるという通念がそのプロセスを一層悩ましいものにさせています。

つまり、この国の不動産投資をより魅力的にさせるのが流動性であるということです。流動性が高い間は、レバレッジをかけるのが容易になりますが、流動性が落ちればレバレッジもかけにくくなります。結果として、不動産相場に影響します。実際に2008年のリーマンショック時はシンガポールの不動産市場でも、流動性が枯渇し大きな影響を受けました。

一方で、ある程度資産があると猫も杓子も不動産をチェックするマーケットなので、ビジネス新聞には毎週、具体的な取引事例、約定価格などが地区ごとに紹介されます。このように、シンガポールの不動産市場は極めて透明性の高いマーケットであります。

その他の要因について、もう少し詳しく説明してみたいと思います。


【通貨の安定性】

政治の安定性ともつながるのでしょうが、域内の他国がそういった側面を持たないためその要因はより一層強調されがちです。この国の人々は自国通貨に対してよほど国外でビジネス経験がある人以外は、これまた盲目的な信頼を置いているように思われます。私もシンガポールに移住してだいぶ経つので、シンガポールドルでの資産が増えていますが、日本や他の先進国のような政府債務/GDPが何%といった議論をする必要がない、安心感のある数少ない国の一つです。

余談ですが、前回のエントリー「 シンガポールの不動産事情 」で政治の安定性にも触れましたが、マレーシアではここ数ヶ月のうちに予定されている選挙を前に政府関係の要人が一生懸命シンガポールに資産を持ってきて不動産に変えているという話をマレーシアのお客様からも頻繁に聞くようになっています。


【地理的要因と言語環境】

気候的に常に暖かく、ヨーロッパからも比較的アクセスしやすく、英語、中国語双方で生活ができるというこの上ない環境。もしかすると、これが一番の利点であるかもしれません。
ちなみにシンガポール人のビジネスマンから見ても中国人ビジネスマンは非常に扱い辛く、法律や常識が通じにくいといった話を常々聞くことがあります。見た目が同じでも、同じ言語を話せてもシンガポール人を見て「中国人と同じだな」などと考えないことをお勧めします。


【低金利、市場環境】

これだけ景気が良ければ、さぞかし金利も高かろうと思われますが、この国の金利はアメリカの金利を基本的にフォローしており金融政策は為替を通じて行われます。

例えば、30年物のローンを組んだとします、典型的なスキームは当初2年だけ固定だと思いますが、⒈1%くらいの固定で少なくとも2年は固定できてしまいます。ですから、金利が上がればポジションを持ちきれない投資家が必ず出るはずです。

そして株式も非常に底堅く、あまり頭をつかわずに銀行株のようなブルーチップ銘柄だけ買っておけばここ数年は30%くらいは儲かっているでしょう。すなわち株式がダメだから不動産を換金しておこうといったことは起こり難かったといえます。しかし、現在のシンガポールの株式は割高に見えてきていますし、それほど出来高があるようにも思えません。直近では強烈にシンガポールドル建ての債券が増えていますが、急激なシンガポールドルへのニーズに比例して資本市場が未発達で資金を吸収しきれていなかったとも言えるかもしれません。要するにあまりお金の使い道がないマーケット、通貨であるとも言えるのでしょうか。


【その他】

キャピタルゲイン(譲渡益)が課税されないなどの魅力的な税制面や自然災害が起こり得ないと信じられていることも要因の一つでしょう。 ちなみに今回のタイトルは私の担当の不動産ブローカーが「 QE3だから不動産早く買った方がいいよ 」と携帯にメッセージを残してくれていたので、という理由です。

次回はもう少しマーケットに踏み込んで書いて見ます。ではまた。

By N.S

photo credit: williamcho via photo pin cc