◎法人設立から相続までの流れとメリット


今回は「被相続人は土地と賃貸建物を所有する個人事業主で、事業承継を行う親族がいる」という前提を元にご説明いたします。相続税対策を目的とした法人設立の場合、まずは相続人を株主かつ役員にして法人設立を行う事から始まります。

次に被相続人が所有する賃貸建物を法人が買い取ります。建物を法人に譲渡すると、今まで個人で受け取っていた家賃収入は法人の収入となり、個人財産への増税を止める事ができます。そして、ここでのポイントは買い取るのは賃貸建物のみという点です。では何故土地は買い取らないのでしょうか?

その理由は税金にあります。土地を移すというのは税率も高く、多くの資金が必要になりますので、土地は被相続人の所有のままとした方が良いのです。しかしこれでは法人が被相続人から土地を借用する事になり借地権へ課税されるのではないかと心配になるかもしれません。

そこで次のポイントです。「無償変換の届け出」を行う事で権利金の認定課税は行われなくなります。
そして法人が個人に支払う地代はなるべく低くしておけば、個人財産の増加を止めつつ法人に所得が蓄積されていく事になります。次に、先ほど少し触れました所得の分散を行います。法人に蓄積された所得を相続人に分散する事で、所得にかかる税金の圧縮ならびに次世代への財産移転を行います。

ここまでの流れが法人設立から運用の段階です。
法人を設立する事で、個人資産の増加に伴う相続税の圧縮ならびに次世代への財産移転をスムーズに行う事ができます。

では実際に相続が発生した場合にはどのような流れになるのでしょうか?
冒頭でご紹介した通り、不動産相続の大きな問題点は納税資金の調達にあると言っても過言ではありません。相続税破産という言葉があるほど納税資金繰りは難しい問題ですが、法人設立は納税資金の確保にもメリットがあるのです。ポイントは銀行融資の受けやすさにあります。近年の相続税支払いの傾向として、相続税支払いを理由とする銀行融資は高金利もしくは受け難い状況です。

現金で相続税が支払えない場合には物納もしくは売却という手段もありますが、物納は条件が厳しくなってきており売却もその時々の値段での交渉ですので、希望通りの価格で売れるとは限りません。過去には土地を手放す選択をしつつも土地が売れず、相続税の支払いを巡って自殺にまで追い込まれたケースも存在します。

しかし法人ですと「不動産の取得」という名目で比較的容易に融資を受ける事ができます。これを納税資金として活用する事が可能なのです。

以上が法人設立から相続までの流れとなり、法人設立によって得られる主なメリットは下記の3点となります。

①個人事業主の場合よりも相続税自体を圧縮する事ができる

②次世代へ合法的な形で財産移転を行う事ができる

③相続人が相続時の納税資金確保時に有利に立ちまわる事ができる


◎法人設立時のデメリット


このように設立を行う事で様々なメリットを得る事ができる法人化ですが、デメリットはどのようなものがあるのでしょうか?法人設立のデメリットとしては、様々な諸経費や手間が発生するもしくは発生する可能性がある事でしょう。

具体的には会社設立時の各種登録費、建物の個人から法人への売却時の税金、建物の名義変更時の税金、確定申告時の税理士報酬、社会保険の事業主負担、会社解散時の費用等です。逆にそれらの費用の捻出に問題が無ければ、法人設立は検討するに値する手段かもしれません。

今回は法人化による相続税対策の検討ついて条件やメリット・デメリットに焦点をあててご紹介致しましたが、いかがでしたでしょうか?
近頃話題になっている平成25年度税制改正では相続税についても改定が加えられ、相続税問題はよりシビアなものに発展する可能性があります。

個人事業主で不動産オーナー業を営まれている方は、この機会に是非、専門家を交えて法人化を検討されるのも良いかもしれません。

【参考】
不動産オーナーの経営事情vol.1 〜切っても切れない税金の話〜
不動産オーナーの経営事情vol.2 〜事業承継問題〜

by 山崎     photo credit: geraldbrazell via photopin cc