イスラム世界への浸透方法

とは言え、この巨大市場を諦めるわけにはいかない。この巨大市場に足掛かりを作り、且つ深く入り込んでゆくためには、どうしたらよいか?

ここでの戦略としては、オスマン帝国の旧版図をベースに市場を捉えるのが良いと考えられる。オスマン帝国の最大版図は17世紀後半で、地中海と黒海及びペルシア湾を覆う形で構成されている。現代でも、トルコを中心として旧オスマン帝国領の文化的な結び付きなどが残っており、旧オスマン帝国領内に市場を開拓してゆく、という浸透の仕方は有効である。実際に、既に当地で先行している日本の素材メーカーは、そうした浸透政策を採って成功している。

具体的にはトルコでの足掛かりを固めたあとで、エジプト・アルジェリア・チュニジア・シリアなどの各国に展開してゆく、という流れになる。

ただし、トルコは先述したようにイスラム教国ながら比較的西欧に近い価値観を持つ国であるが、それ以外の旧ペルシア帝国領国はそれぞれ価値観や国情が異なるため、自社の業種業態やマーケットの発展度合いなどにより個別に見極めて自社にあった浸透プロセスを計画する必要がある。

また、その他の留意点として、イスラム独特の商習慣がある。商習慣とは、特定の地域や民族などが持つ商取引に於ける基本的な考え方や商業の歴史、得意パターンの総体を指す。日本でも近江商法や富山商法などが有名であるが、世界にも華僑商法、インド商法、ユダヤ商法などと並んでイスラム商法(レバシリ商法)というものが存在する。

イスラム商法は、合理主義に基づく商法であり、それに独特の宗教的な観点が加味された商法である。こうした世界の商法に関して日本人には特に馴染みがないため、イスラム世界の価値観を理解するとともに、こうした商法においても相手と取引できるだけの深い理解が必要である。


多様性を理解できる能力

このようにイスラムマーケットと一括りで言っても、その歴史や価値観などは複雑で多様性に富む。また、ビジネスの観点で言えば、日本とは全く異なる独特の商法も当地の常識として存在する。そうした多様性を、頭で理解するだけでなく、しみじみとした感覚をもって把握できる能力を身に付けることこそがグローバル企業への第一歩であると言える。

それは、例えば非アジア圏の人々がアジアマーケットと一括りに理解しようとしたところで、アジアの多様性を把握できないのと同じことである。ただし、理解できることは、あくまで最初の一歩で、真のグローバル化には相手を深く理解するだけでなく、自分自身の理解及びそれを説明する力や互いの立場を尊重しつつ自分たちの利益を追求する交渉力なども必要になる。

つまり、グローバルな世界が持つ多様な価値観を、自分の関係と絡めて理解し、相互の関係や多様な価値観を先見的に評価する能力が今こそ日本人には強く求められている。それらについては、長くなるので別の稿を改めて説明をしたいと考えている。  (提供: Biglife21

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