IT活用, 中小企業, 座談会

(この記事は2014年4月6日に掲載されたものです。提供: Biglife21

1月26日、「クラウド等を活用した地域ICT投資の促進に関する検討会」が総務省8Fの第1特別会議室にて行われた。西銘恒三郎総務副大臣をはじめ総務官僚や大学教授、主要ITベンダー経営層が集まるなか、議題に上がったのは、「中小企業のIT活用はなぜ進まないのか」。

事実、平成25年度中小企業白書によると、小規模事業者の自社HP開設の割合は2007年の39.6%から2012年になっても、46.3%にしか進んでいないとのこと(同データ大企業の割合:85.3%⇒95.6%)。更に、ITの活用が必要と考えているがITを導入していない企業に理由を問うと、「導入の効果がわからない、評価できない(53.9%)」、「コストが負担できない(45.7%)」と続く(同じく出典:平成25年度中小企業白書)。

中小企業において、IT活用がなぜ進まないのか。IT推進派と苦手組の計6名の企業人による座談会を行った。


FAXで業務が成り立つのならば、パソコンには触れたくない

渡辺一城(以下渡辺):中小企業のIT部門を請け負うサービスを展開していますティースリー株式会社の渡辺と申します。日常的に使うパソコンやサーバの保守がメインですが、メールや業務システムの不調を含め「ITで何か困ったことがあれば何でも聞いてください」と言えることが弊社の強みです。今日のテーマに関しては、実際お客様をお伺いすると、埃をかぶって動かなくなったマウスがついていたり、キーボードの上に書類が積まれていたりという光景を目にする機会があるので、IT活用が進まない現状を実感できます。やはり「パソコンを使わないでも業務ができてしまうから置き去りになっている」のかと。

竹安栄始郎(以下竹安):企業の理念や想いをロゴやデザインへ統一して反映する、ブランディングを得意としています。現在は2008年に立ち上げた株式会社リアルエイジでブランディングディレクターをしています。弊社のお客様もITを毛嫌いされている方が少なからずいます。例えば、ご依頼頂いたデザインの修正を戻して頂く際、「FAXで良いでしょ?」と言われることがまだまだあります。微妙な色味などを伝えられないので、FAXは控えたいのですが……。クラウドの普及によりペーパーレスの時代になっても、使い慣れているFAXの方が効率が良いと感じる方がまだいらっしゃる。

山名芳雄(以下山名):ライフフォース株式会社でマーケティング・コンサルタントをしています。中小企業を主なクライアントとして、インターネットを活用した集客や売り上げをあげる仕組みの提案などのお手伝いをしています。率直に思うところは、ITを活用して売り上げがあがり、実際に利益が出るという実感を持たせることがIT活用の鍵を担うということ。逆に、今までインターネットなどが関係なく売り上げがあがっている人は、インターネットやITを活用しようとは思わない。だから、ほんの少しでも良いので、インターネットを活用することで利益や売り上げをあげ、あがった段階で実感を持たせるきっかけを作ることが大事かなと思います。

小峠亜弥(以下小峠):私はアロマリラクゼーションサロンrapportを恵比寿で開いています。IT活用が苦手なので、多分苦手代表ということで、この席に呼ばれたのかと(笑)。よろしくお願いします。私の場合、渡辺さんや竹安さんのお客様の気持ちがよくわかります。さすがにメールぐらいは使えますが、機能的なところで、よくわからないメッセージが出てくると対処できなくなります。「スプリクトを停止しますか」とか問われても、ねぇ。

竹安:スクリプトだね。そこから既に間違えていますよ(笑)。

小峠:全くわからないので、とりあえず「いいえ」か「×」を押して画面を閉じることが多いです。

川田貴也(以下川田):全く同じだ……。私はオーダー家具など内装業全般を手がける企業で役員をしているのですが、ITが苦手な方なので、FAXで業務が成り立つのならばパソコンは極力使いたくない。操作方法とか新しいことを覚えるのが面倒で。ITに知見のある社員にいろいろ聞きながらやってみて、便利さを認識できることもありますが、自分で一から覚えるために時間や労力を割くかと言われたらちょっと腰が重くなる。自社は他にやってくれる人がいるから必死にならないのかもしれないけれど、一人で会社を運営しているとしたら、果たしてどうしたのか。小規模事業者の方には、私と同じレベルで躓いている人が多いんじゃないですかね。

小澤みゆき(以下小澤):有限会社フラワーガーデンの小澤です。WEB製作を20年行っています。今まで約400社のWEB製作を行ってきました。なので、苦手組で呼ばれているワケではないかな。


ITを活用しないとビジネスが先細りする?

―ITを導入しないとビジネスが先細りして行くと危機感を抱く中小経営者は少なくない。どうしたら、ITの導入がうまく進んでいない人たちの状況を改善できると思いますか?

渡辺:弊社が心がけているのは、できるだけわかりやすい言葉を使うことです。ITのスキルも大事だけれど、それ以上に大事なのはコミュニケーション能力です。エンジニアの世界にどっぷり浸かった人であればあるほど、専門用語を使いたがる。英語の横文字とか、3文字のアルファベットとか。

一同:あ~(苦笑)

渡辺:たくさん説明しないでも一つの単語で済むから、エンジニア同士の会話が楽なんです。でも、弊社がそれをやったらお客様の満足度が一気に下がるので、お客様の会社が使う言葉に置き換えて説明するようにしています。少しでも理解してもらうことで、少しずつIT慣れをして貰えたらと思いますね。

川田:確かに、私らITが苦手組は、どれだけ難しい言葉を使わずに説明されるかによって変わると思います。わからない言葉が続くと、質問をしようとも思わなくなる。気持ちが萎えて、理解しようとも思えなくなる。

渡辺:極論を言えば、ITのことを理解しなくてもいいんです。IT機器なんて目的を果たすための道具にすぎない。根本として、経営をするうえで会社がどうあるべきかを考えていくことが肝心です。そのうえで、手段としてITの活用が位置づけられるワケですから。

竹安:とはいっても、このご時世、一般論として企業経営にITを適切に導入して行かないと生産性があがらず、競争社会に生き残っていけないと思いますね。

小峠:そうかな。ITなんかわからなくても経営に何の支障もないところは多いですよね。

川田:確かに。製造業や運輸業、建設業などB to Bの中小企業では、自社のHPを一個作ってさえおけば、それでOKみたいな世界ですよね。90年代に作ったような古いHPがまだまだ現役というところが多い。

小澤:それがダメなんですよ。古いHPをそのまま公開するくらいならば、HP自体がない方が良いとさえ思う。なぜなら、「弊社はWEBをおざなりにしていますよ」というネガティブキャンペーンをしているようなものですから。B to Bで関係ないといっても、そういう見方をする人は増えてきています。それに、優秀な人材が欲しくても、視野の広い優秀な人間はHPを見て、企業の感覚にゲンナリすると思う。

竹安:就職してくれる人を募る上で、どんな人がどんな風に働いているかを見せることは重要です。誰にどう思われたいかを意識したHPを作り、現状に満足せず変化させて行くことがこれからは必要だと思います。

―では、古いHPはない方がマシ?

と、ここで店員さんに言われて席を変えることに……後半、話はますますアツくなる!?