温泉旅館にとって「一石二鳥」のメリット

だがNEDOの新エネルギー部熱利用グループの主任研究員、生田目修志さんは、「決して魅力がないかというとそうではない」と話す。「1軒の旅館分を満たす発電量は十分確保できる」からだ。

温泉発電を推進する環境省の担当者も、「発電規模によっては災害時に温泉街や旅館の電気を確保することができ、自立・分散型で地産地消の電源としても期待できる」と意義を語る。

さらにNEDOの生田目さんは「温泉発電は、温泉旅館などの事業者にとっても一石二鳥の効果が期待できる」という。

「たとえば90℃くらいの温泉の場合、そのままでは高温すぎて使えない。45℃くらいに冷ましてはじめて温泉湯として使える。そのため温泉事業者によっては、加水したり、樋を引いて空気に晒して冷ますなど、冷やすコストがかかる。

これがバイナリー発電だと、蒸気でタービンを回すときに熱交換をするので、90℃が60℃くらいに下がる。減温装置をかけずに電気もつくれるので一石二鳥となる」

温泉地としては、願ったり叶ったりだが、ことはそう簡単には進まない。技術的にクリアすべき課題があるからだ。

生田目さんによれば、大きく3つあるという。

1つは地熱発電に比べて、湯量が少ないこと。NEDOの実証実験では1、2本の温泉井戸で10 kW程度の規模。「発電量が小さいということは、売値が同じだとコストパフォーマンスが悪くなる」。

もう1つが、発電後の媒体の扱いだ。温泉発電では、媒体の蒸気を使ってタービンを回して発電するが、発電後の蒸気は温度が下がるものの、気体のまま。

これを効率よく使うためには、凝縮器で冷却して液体化する必要がある。そのための水が近場から引けることが前提となる。「近くで川や沢があるなら使いやすいが、ないとコスト高となる」

3つめが温泉そのもののウリである、「湯の花」と呼ばれる「スケール」だ。これが使っているうちに配管を塞いでいくため、定期的に取り除く必要があるのだ。温泉発電技術の最大の課題とも言われる。

スケールは泉質によっても違うが、多いと2週間で導管を塞ぐこともある。「いまこれを工学的に取り除く技術開発に取り組んでいます。薬剤を使う案もあるが温泉発電はお湯をその後、温泉などで使うので難しい面もある」

技術とは別の問題もある。温泉地の合意形成だ。実際環境省の事業として行っている長崎県小浜温泉での実証運転の際には、地元温泉組合の反対が起こった。

湯量変化の不安や公害などの懸念が起こしたものだが、地域住民の頭越しの取り決め方も地域の反発を買ったようだ。小浜温泉ではその解決策として、地元に「一般社団法人小浜温泉エネルギー」を創設、温泉発電開発の主導権を地域住民が持つようにした。

最大の技術課題、スケールについては、「完全な解決策はなくとも、2週間に1回取り除いていたことが、1カ月、2カ月に1回と期間を延ばすことでコストパフォーマンスを上げられないか考えている」(生田目さん)という。