(この記事は2015年3月3日に掲載されたものです。提供: Biglife21 )
「中国夢」と中国のエネルギー政策
中国のEVの問題を考えるに当たっては、まずは中国のエネルギーの現状と政策を理解する必要がある。
中国は日本を抜いて現在では世界第2位の経済規模を誇るまでに成長したが、その過程では効率の悪い成長経路を辿ってきた。元々、中国の経済成長が重工業をベースとした工業化をベースにしていたことに加え、急速なモータリゼーションと都市化により資源消費型の経済・社会構造へ変化してきた。その結果として、中国は資源輸出国から資源輸入国に転換し、一時は輸出までしていた中国の石油の自給率は、現在では4割程度まで下がっている。
そのため、化石燃料を中心とした現在の中国のエネルギー問題と、それに起因する環境汚染が深刻であることは、中国政府もここにきて強く認識している。現状では、中国の世界に占める石油の消費割合は10%を超えていて、石炭に至っては 50%にまで達していることを踏まえると、これまでのやり方で中国が経済拡大を続けていくことは困難であることは明らかである。それでいて、エネルギー制約を乗り越えた持続的発展を中国政府はなんとしても実現させたいと考えている。
そこでエネルギー源の多様化、である。といっても、これまでも多様化を進めてはきている。その中心は原子力発電で、2014年時点で19基の原発が稼働しているが、これに加え現在29基が建設中とのこと。更に225基の新規建設が計画されている。この電力供給能力の増強を前提に、中国はクリーンでエネルギー効率に優れたスマートシティ構想を推進している。2012年末の時点で「智能城」と言われるスマートシティの建設プロジェクトが中国全土400地点で推進されており、2015年までの累積関連投資規模は2兆元に達するとされる。
実は、エネルギー源の電力化へのシフトは、中国にとってエネルギー源の多源化を進めることに意味がある。化石燃料は事実上、そのエネルギー源が石油のみであり、国内のエネルギー需要の大部分を国内生産分で賄えないとなると、外交上・安全保障上の驚異を中国は将来に渡って抱え続けることになる。石油はアメリカの世界戦略の切り札であり、現在、それに根本的に対抗する手段が中国にはない。
自国に必要なエネルギー源を輸入に頼らなければならない現在の自国の構造は、経済面だけでなく、安全保障面や社会面でのリスクも抱え続けることになり、それはつまり、中国国内の経済・治安及び外交がアメリカの意向に左右されることを将来に渡っても左右されることを意味している。習近平の掲げる政策目標である「中国夢」(大袈裟に言えば、中華帝国の再興)を実現させるためには、アメリカ主導の石油経済圏から脱し、自国の自律したエネルギーシステムを作り上げことが是が非でも必要なのである。
こうした状況で、中国政府は、現状では原子力発電を中心としつつエネルギー源の多様化が容易な電力中心の経済・社会構造への早期シフトを急いでおり、その具体的な施策として、スマートシティ構想と共に、直接的なエネルギーシフトの効果を見込めるEVへとそのほとんどを置き換えてゆきたいと考えている。