桁違いの中国のEV生産目標台数
中国での自動車の販売台数は、2014年で前年比6.9%増の2,372万台(速報値)であった。これは、第2位の米国の1,652万台を大きく上回っており、また6年連続で世界トップとなった。中国国内の2015年の自動車販売台数は概ね7%の増と見込まれており、台数ベースでは2,500万台を超えると予測されている。
この国内の自動車生産・販売を、中国政府は一気にEVに置き換えたいと考えている、と言われている。EVの中国国内の販売台数は、2014年では約4.8万台となっているが、現状の自動車販売のほとんどをEVに置き換えるとなると、まずは乗用車から始めるとしても、年間2,000万台以上のEVが今後、中国国内で生産・販売されることになってゆくことになる。一方、EVとして最も実績のあるリーフを製品ラインアップに持つ日産のEVの累計販売台数は20万台である。また、テスラ・モーターズは、年間販売台数が2020年で50万台とする年間販売目標を挙げている。
こうした既存のEVメーカーの販売実績や販売目標と比較すると、中国の2,000万台というのは、文字通り桁違いで、非現実的なように見える。しかし、これまでの中国メーカーが実現してきたブレークスルーを考えると、あながちそれを夢物語と言い切るのは早計である。
一億台のスマホを売る小米
例えば、巨大な中国市場を背景に2010年に創業し中国のスマホ市場に参入した「小米(シャオミ)科技」は、創業からたった4年でアップルやサムソンを抜いて中国市場で最もシェアを持つメーカーに躍り出た。その販売台数は、2014年には前年比227%増の6,112万台であり、このまま成長ペースを維持できれば、2015年には1億台以上のスマートフォンを販売することは間違いないと見られている。
また、小米は、中国以外の市場にも積極的に進出している。既に台湾やシンガポールで事業を展開しており、さらにインド・ブラジル・ロシア・トルコ・マレーシア・インドネシアなどへの進出を計画している。更に、小米はスマホ市場だけでなく、4Kテレビや空気清浄機など、中国国内市場の需要が旺盛で製造が比較的単純なアッセンブリー製品の新規事業にも次々と乗り出している。小米以外にも急成長した企業として、従業員10名の会社から台湾でスタートし現在では各国で80万人の従業員を抱えるまでに成長した電子機器受託生産(EMS)を請け負うフォックスコン・テクノロジー・グループ(鴻海科技集團)などもある。
このように、巨大な中国市場を背景に、アッセンブリー製品を中心とした比較的簡単に製造できる製品をいちどきに市場に投入することで急成長を実現する中国系の企業は多い。急成長で得た資金を使い、更に大規模に新規事業を展開し、更なる成長に繋げてゆく、という拡大循環に自らを乗せるパターンが、小米やフォックスコンのような中国系企業の勝ちパターンだと言える。
中国に於けるEV市場の展開
EVも、同様の展開が予想される。つまり、スマホなどと同様に、既に巨大な需要のある中国国内の市場を対象にして一気に市場を取りにくる企業が現れる。その際のプレーヤーは、自動車メーカーではなく、小米やフォクスコンなどの巨大な市場を相手に一気に製品を投入してシェアを取ってゆくことが得意な企業であると考えられる。
その際、EVの販売台数は、現在の規模の数万台や数十万台という単位ではなく、現在の新車販売の規模を考えると、販売台数ベースで1,000万台~2,000万台が、その単位となる。EVは、カテゴリでは自動車ということになっているが、モーターと電池という成熟した技術を組み合わせた製品自体は内燃エンジンを搭載する既存の自動車と比較するとかなり単純な組立製品で、どちらかと言うとIT製品に近いアッセンブリー製品であると見ることができる。
こうした一見複雑で高度な技術であると見られる製品を、単純な組立製品として捉え直して安く大量に生産するやり方は、PCやハードディスクなどの時代から台湾・中国企業は得意としてきた。EVも正にそれが当てはまる。
更に、その際、大規模な量産効果で、EVの製品価格も現在の水準から圧倒的に安い価格で販売することができるようになると予想される。実際に、前述のフォックスコンは既にEVへの参入を表明しており、詳細は明かされていないものの、その際には1.5万ドル(約180万円程度)で売り出すとしている。現在のリーフが日本国内の販売価格で280万円~360万円程度であるので、概ね半額程度の金額ということになる。恐らく価格帯としては、これでもまだ高い部類に入ることになるはずで、スマホなどの展開から類推すると、更に安い価格帯の製品を市場に投入してくることも充分に考えられる。
こうしたことを背景に考えると、数社の中国や台湾のITメーカーがEV市場に参入し、桁違いの販売計画を立てて一気に巨大な中国市場を一気に獲得する、というのはかなり確度の高いシナリオである。そして、巨大な中国市場で価格競争力を付けた製品を海外市場に展開し、更に量産効果を発揮させた中国製EVが世界市場を席巻する、という展開も想定される。