厚生労働省は違法な従業員の長時間労働を繰り返すいわゆる「ブラック企業」について、是正勧告の段階で社名を公表する方針を固めた。この動きにより人材派遣業界をはじめとして恩恵を受けそうな業界、銘柄をみていく。
恩恵を受ける業界は?「すき家」の事例から考える
長時間労働の是正で恩恵を受ける業界の事例から考えたい。長時間労働や深夜の一人勤務といった労働環境の悪さで問題となった「すき家」を経営するゼンショーHD <7550> に対する第三者委員会の報告書では、「長時間労働禁止と休日付与、連続勤務禁止のルール実現のために、人事部門による営業部門の監視機能の強化」「人材の継続的な採用と店員教育の強化」「労働時間を客観的に管理するためのシステム導入」が提案されている。
この報告書から分かることは、ブラック企業解消の恩恵は人材派遣、アウトソーシングを業務とする企業だけではなく幅広い業界に波及効果があることだ。
例えば、ITシステム開発ベンダーや従業員向け教育大手。さらに、残業時間が減ることで帰宅後の時間を有効活用する観点からスクールやフィットネスクラブといったサービス業にも恩恵が広がる可能性もある。
人材紹介業界では技術者派遣企業が好調
ブラック企業に対する取り締まり強化の対策の基本は、適切な従業員数を確保することにあり、人材を採用するか、派遣やアウトソーシングを活用することで一人当たりの負担を減らすことだ。この動きは人材紹介、人材派遣、アウトソーシング業界にはビジネスチャンスとなるだろう。
特に注目なのは、技術者や専門家を派遣することで同業他社との差別化を図っている企業である。
例えば、技術者派遣大手のアルプス技研 <4641> は2014年12月期決算で売上高が前期比11.5%増の202億円。営業利益が前期比51.9%増の16億2, 600万円。当期純利益は前期比93.3 %増の12億6,000万円と業績は好調だ。
業績に影響を与える稼働率も、2015年度第一四半期は前年同期比0.7ポイント増の98.0%と堅調に推移しており、さらなる上ぶれも考えられる。
また同業大手メイテック <9744> も、2015年3月期の決算では、派遣事業部門は増収増益を記録し、2016年3月期決算予想では、売上高は過去最高である860億円(前期比4.7%増)、営業利益は98億円(前期比2.7%増)を見込んでいる。
勤怠管理システムにも特需が起こるか?
すき家の第三者委員会が提案した改善策の1つに、「労働時間を客観的に管理するためのシステム導入」が提唱されたことから、タイムカードを始めとする勤怠管理システムを販売する企業の売上高が増えることも予想される。
例えば、タイムカードや勤怠管理、人事管理システム大手のアマノ <6436> は、今後の売上増が見込める。同社の2016年3月期売上高は、前期比9.3%増の1,200億円、営業利益は前期比20.8%増の113億円、当期純利益は前期比7.4%増の73億円の見込み。
さらに同社は株主還元にも力を入れており、連結配当性向は40%以上を目標に掲げている。配当金の実績も、2015年3月期の1株当たり配当金は前期比8円増の38円。2016年3月期は40円を予想しており、3期連続の増配を予想している。株主還元という観点からも魅力的な企業である。
クックパッドやNTTドコモにも恩恵が?
ブラック企業の取り締まり強化の動きは、社会人向けスクールやフィットネスクラブを運営する企業にとっても追い風だ。社会人のスクールやフィットネスクラブへのニーズは高い。
英会話学校のGABAの調査によると、今後始めたい習い事がある割合は、全体の70.8%(男性61.6%。女性80.0%)であり、1位「英語・英会話」2位「料理・お菓子」3位「フィットネス・ジム」の順に人気が高い。
英会話学校を経営する上場企業で、独自のビジネスモデルを展開して売上が伸びているのは2007年設立のベンチャー企業であるレアジョブ <6096> だ。同社は、スカイプを活用しフィリピン人講師と英会話を行うというオンライン式の英会話スクールを展開し、月額5,800円からの低価格と開始5分前から予約できるという柔軟性をウリにしている。
ユーザー数は開始8年で順調に伸び、2015年に4月には34万人を突破した。業績も好調で、2014年3月期に黒字転換した後、2014年6月にマザーズ上場。2015年3月期には売上高が前年同期比25%増の21億円、当期純利益は前年同期比約3倍となる1億円を達成している。オンラインで柔軟に予約を受け付け受講できるという手軽さは、忙しい社会人でも受講がしやすく、今後も会員数の伸びが予想される。
「料理・お菓子」分野での注目企業は、クックパッド <2193> とNTTドコモ <9437> である。クックパッドはレシピサイトの大手であるが、2014年5月から認定料理教室である「クックパッド料理教室」を展開。
また、NTTドコモは2013年10月にABC cooking studioを運営するABC Holdingsの発行済株式の51%を取得し子会社にしている。
スクールの運営会社が小規模な企業が多く、NTTドコモのように既存のスクール事業することで新規参入する企業が現れることも考えられる。ブラック企業に対する取り締まり強化に代表される監督省庁の動きは、広範囲な影響を与えそうだ。
【関連記事】
・
まだまだ知らない人も多い「マイナンバー制度」 関連銘柄厳選4社
・
日本人大富豪ランキング トップ20の顔ぶれはこれだ!
・
日経新聞・四季報などがネット上で全て閲覧可!?その意外な方法とは
・
4月の外食売上2.7%減、ファミレス好調もファーストフード苦戦
・
10万円以下でも買える?2015年の目玉LINE株を上場前に買う2つの方法