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(写真=Thinkstock/GettyImages)

米経済は冬場に急減速し1QGDPはマイナス成長に陥ったが、ここへ来てようやく回復を示す指標が増えてきた。それにも拘らずFed理事からは急に利上げ開始に関して慎重な発言が目立ってきた。

こうした齟齬の背景には、景気回復がまだら模様で不十分なことがあるが、7月FOMCまでに主要経済およびインフレ指標の改善が明確となっていれば、Fedは9月会合での利上げ開始を市場に織り込ませていくだろう。

その際、正副議長を含むコアメンバーだけでなく、浮動投票者(swingvoters)の姿勢(の変化)も鍵を握る。9月利上げ開始が実現すれば、ドル/円は下支えされ、再び125円方向に向かう可能性が残っている。


指標はようやく回復に向かったが・・・

5月以降発表された米経済指標は、冬場の悪化からようやく回復の兆しを見せ始め、市場の悲観論と利上げ先送り懸念が後退しつつあった。

経済指標で特に注目度が高かったのは、冬場の悪化が顕著だった小売売上高(5月13日)、住宅着工(5月19日)、耐久財受注(5月26日)、貿易収支(6月3日)および雇用統計(6月5日)などだったが、小売売上高を除き市場予想を上回り、冬場の悪化が一時的で特殊要因によるものとの見方が強まった。

サンフランシスコ連銀が米GDP統計の季節調整の不備を指摘し、1QGDP成長率は(速報値の前期比年率+0.2%ではなく)+1.8%程度だった、との試算を公表したことも(5月18日)、悲観論を後退させた。


・・・理事が突如、ハト派化

他方、FOMCにおいて常に投票権があり正副議長と同じ投票行動を取る可能性が高いFed理事が複数、突如ハト派的な姿勢を示した。

6月2日にBrainard理事は「1Qの軟調なデータが見通しに対して幾らかの疑問を呈している」「今後の追加データで経済の潜在的な勢いがはっきりするまで情勢を注意深く見守る価値はある」と述べたほか、Tarullo理事も4日、「1QGDPの弱さを季節要因だけに帰すべきではない」「米経済はやや勢いを失った」と述べた。

市場は概ね経済指標の改善の方により強く反応し、Fed高官発言への反応は限定的だったが、FRB理事はYellen議長やFischer副議長の姿勢を踏襲し投票行動も正副議長に従う傾向があることから、両理事の発言がFOMCの多数派を形成している可能性が高く、気になるところだ。


鍵を握るのは経済ナンバー(指標)と利上げ賛成ナンバー(票数)

市場では現在、9月FOMCで利上げが開始されるとの見方が再び強まってきているが、まだダンディール(donedeal、確定)には程遠い状況だ。利上げ決定に向けては経済指標が最も重要で、特に出遅れている小売売上高(6月11日発表、図表1)やコアPCEデフレータ(6月25日発表、図表2)などが重要となる。

これらが全て市場予想を上回り明確な改善を示せば、利上げ開始時期は固まりやすいが、そう簡単には進まない可能性が高い。その場合、経済指標に対するFOMCメンバーの解釈が重要になってくる。

FOMC会合では5人のFRB理事(本来7人だが現在2人分空席)および5地区連銀総裁が正式メンバーとなっており、政策決定は10人の投票権者による投票によって決定される。現在のメンバー(投票権者)10人のうち、5人は正副議長を含むFRB理事、そして12地区連銀総裁のうちNY連銀総裁は常に投票権を持ち、残り11連銀は4つのブロックに分けられ各ブロックから毎年1人ずつのローテーションとなっている。

今年の連銀総裁の投票権者は、Evansシカゴ連銀総裁、Lackerリッチモンド連銀総裁、Lockhartアトランタ連銀総裁、そしてWilliamsサンフランシスコ連銀総裁となっている。

数だけに注目すれば、常に投票権があるFRB理事5人および慣例で毎年FOMC副議長を務めるNY連銀総裁で既に過半数の6票あることから、彼らが一致団結すれば強行採決で利上げ開始が可能となる。

この意味で、彼らのスタンスが利上げ決定の前提条件として最も重要となる。但し、個人主義的で過去には総裁すら少数派となった英中銀(BoE)と違って、FOMCはコンセンサスを重視するとみられる。

特に、政財界から反発が起き易い金融引き締めの決定に際しては極力賛成票を増やそうとするはずだ。この意味で、利上げ開始の決定にあたっては、ハト派色が強いメンバーをどれだけ利上げ決定に巻き込めるかが焦点となる。

最近の発言からFOMCメンバーのタカ派/ハト派度をランキングすると次頁の表のようになる。実は、最近のFRB理事のハト派化もあって、理事らよりもハト派度が高いメンバーは、万年ハト派とも言えるEvansシカゴ連銀総裁しかいない。

現時点で、その他メンバーの大半が年内利上げ開始の可能性が高いと発言している一方で、Evans総裁は一貫して年内時期尚早との姿勢を示してきており、今次利上げ開始局面ではEvans総裁は反対のままの可能性が高い。このため、結局過半数を握る正副議長を含むFRB理事らとDudley・NY連銀総裁が利上げ開始で固まるかが最も重要となりそうだ。

但しそれだけでなく、現時点では理事らよりも早期利上げ開始に積極的な姿勢を示しているが、過去に経済状況によってハト派とタカ派の間でスタンスを臨機応変に変化させてきたいわば浮動投票者(swingvoters)の動向も重要だ。

これには、Lockhartアトランタ連銀総裁およびWilliamsサンフランシスコ連銀総裁が含まれる。なお、一貫してタカ派姿勢のメンバーのうちLackerリッチモンド連銀総裁も今年投票権を持つが、タカ派が利上げに反対する可能性は非常に低いことから、逆にマークする必要性は低い。


年内利上げ開始を前提としたドル高シナリオ

回復が出遅れていた指標を含め、全般的な景気回復が確認され、インフレ目標2%を達成できる見込みが高まれば、FOMCは利上げを開始することになる。7月FOMCまでに主要経済活動指標およびインフレ指標の改善が明確となっていれば、Fedは9月会合での利上げ開始を市場に織り込ませていくだろう。

9月に利上げが開始され、年内2回程度利上げが行われ、その後も同ペースで利上げが継続される前提であれば、ドル/円は下支えされ、日銀の追加緩和がなくとも、更なる円安への懸念発言が時折出ても、125円へじり高となる可能性は残っている。

但し、本邦サイドで円安の悪影響が、米国サイドでドル高の悪影響が顕現化しないことが条件となる。

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山本雅文(やまもと・まさふみ)
マネックス証券 シニア・ストラテジスト

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