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(写真=リフォーム産業新聞)


ソリューションプロバイダーに

2013年にヤマハ傘下から離れ、社名・ブランド変更をしてスタートした「トクラス」(静岡県浜松市)。リフォーム時代の到来を見据えた"新しいシステムキッチン・バス"の開発に意欲を見せている。今年3月に社長に就任した八幡泰司氏に、今後の戦略について聞いた。

―――聞き手 / 本紙社長 加覧光次郎

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トクラス 八幡泰司社長
1954年大阪府生まれ。78年大阪大学工学部卒業、同年日本楽器製造(現ヤマハ)入社。2004年6月同社執行役員生産技術統括本部長、
05年6月同社取締役を経て、10年3月ヤマハリビングテック代表取締役会長、13年10月トクラス代表取締役会長、
15年3月トクラス代表取締役社長に就任。


中期経営計画を見直し

■今年3月に、それまで会長だった八幡さんが新社長に就任され、前社長の森定さん(森定保夫氏)が会長になるという"クロス人事"異動がありました。この人事は体制の若返りと考えていいのでしょうか。

そうですね。私は今年61歳で、森定が67歳ですから、広い意味で若返りと捉えていただいていいですし、もっと言えば、経営体制の強化が狙いです。2010年に当社の前身であるヤマハリビングテックの株式がファンドに譲渡されて以来、4年連続の増収増益だったのですが、前期(2015年3月期)にそれが途切れてしまった。

■前々期の売り上げは445億円で営業利益が11億円と聞いていますが、それでは前期はどのくらいになりましたか。

400億円はちょっと割りましたね。利益も半減です。これだと2017年4月の消費増税駆け込み需要で少し回復したとしても、その翌年にまた減収減益という同じことの繰り返しになりかねない。だとしたら、それは何としても避けたいのです。

■上場するためにも、ここで全面的に建て直す狙いですね。

今ここで構造改革し、もう一度成長路線を回復するため、昨年、半年間かけて中期経営計画をつくり直し、ターゲットを2017年4月からの1年間、つまり2018年3月期としました。ただ、そうなると森定が70歳になるので、この際、交代しようか、ということになったのです。

■八幡さんはヤマハに技術系で入社され、以来ずっと生産技術の分野を担当されてこられたそうですね。

元々はヤマハの生産技術が長いのですが、その後で楽器の事業部や今は撤退した薄膜磁気ヘッドの事業部などに行き、いろいろな子会社の担当役員もやりました。

ファンドへの株式譲渡のとき、私はヤマハの取締役でしたので、ヤマハ本体の方で譲渡決済をした側でした。当社には5年前に移りましたが、実はリビングテックが設立される前、ですからもう25年ぐらい前のことになりますが、ヤマハの商材としてキッチンカウンター用の人工大理石(以下、人大)を開発することになり、そのプロジェクトを担当しています。だから当社とは縁が深いのです。

■ところで、ヤマハ時代からずっと、御社は人大にこだわってキッチン作りをしていますね。

私たちは人大を作りたいのではなく、基本的には使いやすいキッチンカウンターを作りたい、それには人大が一番フィットすると考えています。

■その理由は。

1つは高性能であること。耐熱性が非常に高く、汚れや衝撃にも強い。特に当社製の人大は12ミリの厚みがあるので、傷がついても磨けば完全に再生します。もう1つは素材感。石の質感は日本人にとってもナチュラルで自然ですよね。そういったごく自然に受け止められる素材感を大切にしたいと思っています。

■キッチンは今、月にどれくらいの出荷数がありますか。

国内では月間約5000本です。独特なシェイプで知られる当社のラウンドキッチンも根強い人気があり、月に50本は出る人気商品です。また、今年の秋からは中国で本格的にキッチンの販売を始める計画です。

キッチンについてはグローバル展開が可能。まだ発表段階ではありませんが、インドにも進出する計画で、3年後には海外事業を40億~50億円のビジネスにしたいと思っています。


「本当のシステムバスを作る」

■足元の国内マーケットについてお聞きします。住宅市場が縮小する中で、マーケットを活性化させるには各メーカーが相当、思い切った提案をする必要があると思いますが、最近のキッチンやバスの新商品はどのメーカーも似たり寄ったりで、画期的な商品を出すよりも価格競争になってしまっているように見えます。

それは私も同感です。商品がコモディティー化していてワンパターンになっている。ですから当社では今まさに、すべて新しい発想で見直そうと言っています。例えばバスルームですが、今、日本人のお風呂文化が変わりつつあります。

毎日湯を張って入浴する人が減っている。それなのにバスタブ中心のユニットバスだけでいいのか、シャワーのみの人に今の風呂場が使いやすいのかどうか―などを考えなければいけない。

■若者を中心にシャワー派が増えていますから。

また夜に洗濯する人が増えていますが、洗濯物を風呂場に干したら、その後シャワーを浴びられない。そういった生活スタイルの変化があると、バスルームにもいろいろな機能があっていい。それを実現できるようなバスルームを今、考えています。

■50年近く前に登場したユニットバスは優れた商品ですが、箱形のユニットの中の仕様に視点が集中しがちで、他のアイデアが出にくくなっている面もあるように思います。

当社ではユニットバスとは言わずにシステムバスと呼んでいますが、これからはお客様の様々な要望にお応えできる"本当のシステムバス"を作ろうと考えています。例えば10年経ったらバスタブを交換できる、というようなことです。

当社では以前、「ルームズ」というトイレまで同じフロアに乗った防水パン型の洗面室を商品化しました。中止してもう10年近くになりますが、ひそかに強い待望論があります。もう1回、「ルームズ」を出してほしい、あの商品は出るのが早過ぎたと。

■他社のメーカーさんでも水まわりゾーンの高齢化対応のリフォーム商品を出していますので、「ルームズ」のような商品はこれからでしょうね。

正式には来年2月発表ですので詳しくは言えませんが、「バスゾーン」という呼び方で洗面からお風呂までを1つの構成要素にすると、洗面から入浴、洗濯、洗濯物の乾燥など、ありとあらゆる要素のコンビネーションを今の時代の要請に合わせて作ることができると考えています。

お客様それぞれのプライオリティ(優先度)に応じて構成できるようなバスゾーンをシステムバスとして作り直したい。その準備を今、しています。

潜在需要とは"気づき"

■"システムキッチン"も日本の場合、実際にはパッケージ型の簡易システムが主体です。この辺りにも改革の突破口がありそうです。

キッチンの新しいキャッチフレーズは「今一度、システムキッチンを考える」です。当社でもシステムキッチンと呼んでいますが、本当のシステムキッチンとして機能していない。

ですからシステムキッチンらしい選択の仕方をしてもらえるキッチンを作らなければいけない。お客様がキッチンで実現したいと願うあらゆる要望に応えるのが「システム」とついたキッチンというもの。

だからもう一度、システムキッチンとは何かを問うのです。日本で最初にシステムキッチンという形で事業を始めたのはヤマハですが、考えてみたら「システムキッチン作ってないな」と気づいた訳です。

■私は各メーカーさん方が長年、パッケージ型のキッチンばかりを提供してきた結果、消費者のキッチンに対するリテラシーが向上していないと思うのですが。

そこを私どもは反省し、もう1度、チャレンジします。潜在需要とは"気づき"なのです。お客様が毎日の家事の中で瞬間的に感じるキッチンのお困り事を丁寧に拾い上げて、リフォーム需要につなげることが私どもの仕事です。

お客様がリフォームしたいと感じるからには、差し迫った動機があるはず。その動機をきちんと捉えて、様々な選択肢で解決していきたい。

例えば当社のキッチンのハイバックカウンターは、壁とのつなぎ面のコーキングがないのでカビが生えません。主婦の方の中には、ご自分のキッチンの洗い場で目にするカビに不愉快な方も多いはずです。その悩みをきちんと分かっていただけるように提案していきたい。

また、子育て中の奥さんは1分でも楽をしたいと思っているはず。そういう潜在需要に、お客様自らが気づいていただくように啓蒙していかなければならない。

■消費者が"気づき"を与えられれば、10年、20年と使うキッチンにちゃんと投資しようと思うようになるはずです。

当社は「ソリューションプロバイダーになろう」をキャッチフレーズに、キッチンではお困り事の解決、バスでは生活スタイルの変化や高齢化に対応した入浴のあり方を提案していきます。

もう1つ大切なのは、ヤマハ時代から続く"デザインへのこだわり"ですね。いろいろなミッションを担った商品を開発していますが、一目見た瞬間に「これいいね」と思わせるセンスにはずっとこだわっていきたいですね。(提供: リフォーム産業新聞 6月2日掲載)

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