ジャパンディスプレイ

前回のジャパンディスプレイについての記事では、同社の成長性・安全性・収益性などについて財務諸表を使いながら分析しました。

【参考記事】
初値はいかに?ジャパンディスプレイのIPOに投資するなら株価は長い目で見るべき?
2014年の目玉銘柄!ジャパンディスプレイ上場と株価の展望について

今回は上場日が迫った同社について、今後市場で勝っていくことができるのかどうかを、今一度戦略面から検討していきたいと思います。


●ジャパンディスプレイの成長性


ジャパンディスプレイの事業内容は中小型ディスプレイパネルの開発、設計、製造および販売、というものでした。中小型ディスプレイパネルは大きく分けて「モバイル」と「車載・C&I・その他」の2つの分野向けに製造されています。前者はスマートフォン、タブレット端末などのモバイル機器向けに、後者はカーナビなどの車載用機器、デジタルカメラやビデオカメラ、携帯型ゲーム機などの民生機器、レントゲン写真読影用モニターなどの医療用機器、業務用装置などの産業用機器向けなど多岐にわたります。なおC&IとはConsumer(一般消費者用) and Industry(産業用)の略です。両分野の売上高に占める割合は、旧ジャパンディスプレイ時代の2013年3月期において、「モバイル」64.4%、「車載・C&I・その他」35.6%となっています。

販売面では世界のスマートフォン販売台数上位のメーカーの大半と取引しており、主な販売先は米アップル・グループ(20.9%)という状態です。

このように主力のモバイル向けディスプレイパネルの分野でアップルの大手サプライヤーとしての地位をしめる企業として世界が注目する今回の上場案件。一見寄せ集め統合とも見えたスタートからの新規株式公開ですが、今後の成長性についてはポジティブな材料の方が多く見受けられる印象です。


●ジャパンディスプレイの2つのポジティブ要因


ポジティブ要因として大きく次の2点が挙げられます。

1、中小型ディスプレイ専業という特徴あるビジネスモデルを確立し、技術力により参入障壁を築いている点。

2、LTPS(低温ポリシリコン)市場の成長が期待できる点。

国策によって電機3社のディスプレイ事業が統合され誕生した同社は、高度技術力が必要な前工程は国内で、労働集約型の後工程は海外の工場で、というようにそれぞれ生産工程を振り分ける方式で発足しました。この発足直後からスマートフォン市場における中小型ディスプレイの需要が拡大。操作性を追求するユーザーのニーズがスマホの大画面化のトレンドにつながり、これまでの3インチ代だったスマホとは別のジャンルともいうべき「大画面スマホ」という市場が出現しました。これはかつて薄型テレビが普及した時と同じ構図であると言ってよいでしょう。また大画面化と同時に高精細化、低消費電力化も進み、これまでの価格競争力が物を言うローエンド市場では韓国勢に押されていた日本のメーカーも技術力を武器に攻勢を仕掛けられる余地が出てきたと言えます。実際に、ジャパンディスプレイ社長の大塚氏は「そもそも価格の安いローエンドの液晶ディスプレイは捨てている。そこで韓国や台湾のメーカーと真っ向勝負はしない。」と、新たな市場で戦っていく方針を固めています。

今後、同社としては統合前のソニーが育てた「ピクセルアイ」というタッチパネル内蔵ディスプレイや、日立製作所が得意な「IPS」という広視野角の技術などの日本メーカーの尖った技術の強みを生かし、それを速い商品サイクルに対応できる生産体制の確立や、厳しい条件が要求される車載用ディスプレイの分野で積み重ねた実績などと組み合わせながら韓国・台湾勢の追随を退ける競争力を築く余地があると言えます。

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加えて、この韓国・台湾勢との差別化手段となりうるのが、同社が現在注力するLTPS(低温ポリシリコン)技術です。

このLTPS液晶ディスプレイは有機エレクトロルミネッセンス(EL)に比べ、現時点で更なる高精細化が進んでいます。有機ELは韓国サムスンが手掛ける次世代技術として、同社のGALAXYシリーズと共に注目されがちですが、技術的ハードルが高く投資にも膨大な費用が必要です。今後は価格競争ではなく技術競争が主流になるであろうスマートフォン市場において、現状で技術面での多くのノウハウを持つジャパンディスプレイが逆転する可能性は十分に考えられます。

なお、米アップルは3月3日、iPhoneの車載用システムを発表し、インパネにiPhoneのアイコン画面が表示された写真が伝わった。このシステムのサプライヤーはまだ発表されていませんが、これまでアップルの大手サプライヤーであり、かつ車載向けディスプレイの分野にも確かな実績のあるジャパンディスプレイがここに抜擢される可能性も大いにありそうです。

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●機関投資家が今回のIPOに懸念する課題


ただし機関投資家が指摘しているように、中小型ディスプレイ市場で本当に中長期的に競争力を維持できるかどうかは課題として残ります。スマートフォンとタブレットの市場がちょうど曲がり角を迎えるのが2014年であり、米家電協会(CEA)によると2014年の全世界における出荷額の伸び率は、スマホで27%から6%、タブレットで30%から9%に急減速すると分析されています。頭打ちの先進国に代わって成長をけん引してきた途上国でも息切れになると予測されており、急成長を続けてきた市場は踊り場を迎えることになると言われています。

出荷台数自体は2013年に約10億台の大台に乗った後、2014年も約12億4000万台と今後も普及は進むと言われるものの、途上国市場を中心に低価格モデルが販売の主力となり、1台あたりの平均販売価格は13年の345ドルから14年には297ドルと下落すると言われています。タブレットも13年の約2億4000万台から14年は約3億4000万台と出荷台数を大幅に伸ばすものの、やはり途上国市場を中心に販売価格の低下が急速に進むと予測されます。このため市場出荷額の成長率は大きく低下すると見られ、2013年は前年比でスマホが27%、タブレットが30%と大きく伸びたものの、2014年はタブレットが9%、スマホが6%といずれも一桁台の低成長となると見られています。高価格帯に移行しつつある先進国の市場において技術面で優位に立つことと併せて、縮小しつつある市場の中でいわゆる乗り換えのユーザーに対し如何に遡及を図っていくかの手腕がジャパンディスプレイの今後の戦略の課題だと言えます。


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BY:ZUU online(H.O)