ジャパンディスプレイ111

株式会社ジャパンディスプレイの大型上場が注目されていますが、冷静に投資対象として判断した場合、どうでしょうか。

本稿では、筆者が普段簡易的に銘柄分析をする際に使う手法に沿って、ジャパンディスプレイの事業の市場動向の概観(成長性)、財務分析(安全性・収益性)を行います。

分析内容を簡単に整理すると、

・中核事業である中小型液晶ディスプレイの市場は今後も大きな成長が見込まれる。
・財務の安定性(当座比率・キャッシュフロー)は優れている。
・積極的な投資を行っている。
・収益性のうち、利益率は電気機器産業の平均を大きく上回る傾向にある。
・収益性のうち、EV/EBITDA倍率は市場平均並であり、想定株価は適正水準にある。

となります。ここから、

・IPO時点での短期的な売却益の確保は難しい。
・財務状況、市場動向、投資の積極性より、インカムゲイン狙いの投資に向く。
・想定株価水準は現在の高い競争力、円安を反映した結果であり、為替レートの変化や競合他社の技術力の向上による競争力低下というリスクがある。

という結論が導かれます。これらについて詳説していきたいと思います。

【参考】
2014年の目玉銘柄!ジャパンディスプレイ上場と株価の展望について
上場間近のジャパンディスプレイの成長性と初値を分析する~本当に市場において戦略面で勝てるのか?~?


◉ついに上場!㈱ジャパンディスプレイとは?


株式会社ジャパンディスプレイは、ソニー・東芝・日立製作所の3社の中小型液晶ディスプレイの事業を統合し、2011年政府系ファンド産業革新機構が第三者割当によって出資する形で誕生した官民ファンドです。身も蓋も無い言い方をすれば「非シャープ連合」による官民合弁事業です。2014年1月31日現在の出資比率は産業革新機構が86.7%、各3社が4.3%、その他が0.4%です。

ジャパンディスプレイの上場が注目されている理由には大きく分けて、

・推定時価総額6813.13億円(新規調達は最大で1738億円)
・産業革新機構にとっては初めてのIPOによる資金回収事例

の2つがあるでしょう。

この時価総額は発行済み株式6億1938万株・想定株価1100円の場合で、大型IPOとして注目している人は多いでしょう。また、産業革新機構は上場後も出資比率が34.5%程度になる見込みで、全ての資金を一度に回収するわけではなく、経営を主導しつつ長期的に資金を回収していく事になっています。上場を一つの目標とすれば、同機構にとっては成功事例になったと言えるでしょう。

一方で、 個人投資家に勧誘が来る新規公開株があまり儲からないワケ で書いたように、上場初値が公募価格を超えるアンダープライシングと、その後の停滞であるオーバープライシングに見られるような「上場前の過熱感」は、多かれ少なかれIPOにはあります。

アンダープライシングは期待の現れであり、上場初値を予測する分析も一つの論点ですが、ここでは少し冷静になり、想定株価1100円で購入するとして、それが中長期的な投資対象として良いかを簡易的に分析してみましょう。


◉ジャパンディスプレイの市場動向


ジャパンディスプレイが中核事業として位置付け中小型ディスプレイ(中小型液晶パネル)は、スマートフォンやタブレット、ゲーム機器、デジタルカメラ、医療用機器などで使われています。iPhone5S やiPhone5Cにジャパンディスプレイの液晶が使われている事を知っている方も多いのではないでしょうか。これら製品で使われるディスプレイは高精細である傾向があり、この種の市場が伸びています。

例えば、スマートフォンやタブレットの市場は図1を見ても分かるように、今後も大きく成長していくと考えられています。

ジャパンディスプレイ1
図1:スマートフォン、タブレット、PCの売り上げ予測
出典:The Future Of Mobile (BUSINESS INSIDER)

但し、この図はあくまでも出荷台数であり、図2のような製造業一般にみられる製造コストの低減を考慮すれば、出荷台数ほどの市場規模の成長は無いでしょう。とは言え、それを差し引いても大きく成長する可能性は高いでしょう。 ジャパンディスプレイ2

図2:スマートフォンの平均販売価格の予測
出典:同上

また、ジャパンディスプレイは医療用機器のディスプレイなどでも強みを持っていますが、医療市場・医療機器市場も世界的に拡大していく事が予想されています。その意味で、ジャパンディスプレイの中心事業は競争が激化しつつも成長性が高い分野を対象としていると言えるでしょう。

なお、ジャパンディスプレイのシェアが世界1位であったり世界2位であったりと情報が混乱している節があるので整理しておくと、中核事業である中小型液晶パネルでは世界1位、有機ELを含めると世界2位になります。