◉上場後の評価は?ジャパンディスプレイの財務分析


次に、ジャパンディスプレイの有価証券届出書を元に、収益性・安全性などに関して主要な項目を見ていきましょう。

●安全性
まず、安全性に関しては、当座比率・キャッシュフローを見ましょう。下図3は、株式会社ジャパンディスプレイの連結貸借対照表です。

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図3:株式会社ジャパンディスプレイの連結貸借対照表
出典:株式会社ジャパンディスプレイ有価証券届出書

【当座比率】
当座比率は、

当座比率 = 当座資産 ÷ 流動負債 × 100

で計算できます。当座資産は、流動資産から直ぐに換金しにくい棚卸資産を除外したものです。分子を流動資産にする計算方法もありますが、ここでは厳密に短期の債務支払能力を測る為に当座比率を使います。当座資産は、「現金及び預金」と「売掛金」を合わせて507.23億円であり、流動負債は839.35億円となり、当座比率は60.4%です。

但し、新株発行による資金調達において、国内募集における差引手取り概算額823.74億円と海外募集における差引手取り概算額673.9億円を合わせた1497.61億円のうち、平成27年3月までに合計で921.83億円を設備投資・研究開発投資などに入れる予定になっています。設備投資を行うまでは安全資産等で運用する方針が出されており、実際に当座資産に計上される金額は、手取り概算額から新規投資額を引いた575.78億円より多いと思われます。

仮に、575.78億円としても、当座資産は合わせて1086.01億円となり、流動比率は129.4%以上になると思われます。流動比率が100%を超えるので、財務の安定性は高いと予想されます。

【キャッシュフロー】
図4は、ジャパンディスプレイの連結キャッシュフロー計算書です。平成24年度に関しては、

営業活動によるキャッシュ・フロー:270.71億円
投資活動によるキャッシュ・フロー:△86.08億円
財務活動によるキャッシュ・フロー:63.11億円
フリー・キャッシュ・フロー(営業キャッシュフロー+投資キャッシュフロー):184.63億円

となっています。

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図4:株式会社ジャパンディスプレイの連結キャッシュフロー計算書
出典:株式会社ジャパンディスプレイ有価証券届出書

営業キャッシュフローがプラスに転じているという点では、手元の現金が増えている事を意味し、本業が良好である可能性が高いと言えるでしょう。但し、私見では営業利益(101.06億円)に対して営業キャッシュフロー(141.32億円)が大き過ぎる印象があるので、その原因は調べた方が良いかもしれません。

投資キャッシュ・フローがマイナスである事は、積極的に設備投資を行っている現状と一致していると言えるでしょう。そもそも、設備投資を拡大する為にIPOするのであり、今後もその傾向は続いていくでしょう。

財務キャッシュフローはプラスになっています。配当支払いや債務償還、自社株買いなどをすればマイナスになる事が多いですが、ジャパンディスプレイの場合は積極的に資金調達を行っているが故プラスであると考えられます。

以上より、概ね営業CF(+)・投資CF(-)・財務CF(+)であり、本業が順調な成長企業としての特質を備えていると考えられます。

フリー・キャッシュ・フローは現時点では潤沢にあり、当座比率と合わせて考えても財務の健全性は高いと言えるでしょう。

●収益性
次に収益性に関しては、利益率とEV/EBITDA倍率を使います。ここでは、図5のジャパンディスプレイの連結損益計算書と、平成26年3月期の業績予想である図6を参照します。

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図5:株式会社ジャパンディスプレイの連結損益計算書
出典:株式会社ジャパンディスプレイ有価証券届出書

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図6:株式会社ジャパンディスプレイの平成26年3月期業績予想
出典:平成 26 年3月期の業績予想について(株式会社ジャパンディスプレイ)

【利益率】
利益率に関しては、売上高営業利益率・売上高経常利益率・売上高当期純利益率・総資産利益率(ROA)を使いましょう。それぞれの値は、

売上高営業利益率 = 6.12%(4.88%)
売上高経常利益率 = 5.15%(3.63%)
売上高当期純利益率 = 2.15%(5.87%)
総資産利益率(ROA) = 当期純利益 ÷ 総資産 × 100 = 3.05%

となります。平成25年3月期(平成26年3月期予想)となっています。

電気機器の業種平均は、売上高営業利益率が2.28%、売上高経常利益率が2.64%、売上高当期純利益率が0.75%であるので、業種平均を上回る傾向があります。特に、売上高営業利益率が業種平均を大きく上回っており、本業が順調である事が示唆されます。

また、ROAの業種平均は1.17%であり、3.05%という数値は上場企業全体として見れば良いとも悪いとも言えない数値ですが、日本の電気機器産業が苦しい中では優秀と言える数値でしょうか。

【EV/EBITDA倍率】
EV/EBITDA倍率は、企業の買収資金を何年で回収出来るかを示す指標です。計算方法には幾つか種類がありますが、ここでは、

EV = 時価総額 + 有利子負債 - 現金及び預金
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費 + のれん償却額

とし、EV÷EBITDAで計算します。EVは当該企業を買収するのに必要な額であり、EBITDAは利払い・税引き・減価償却前の利益であり、本業1年で稼ぐ事が出来る金額を示す。もし、企業を買収する場合、その買収コストを何年で回収出来るかを簡易的に計算する指標です。

上場前なので時価総額は推定でしか出ませんが前述の通り6813.13億円としましょう。有利子負債は、貸借対照表の負債の部より「関係会社短期借入金」・「1年内返済予定の長期借入金」・「長期借入金」を足し568.51億円とします。資産の部の現金及び預金は235.24億円ですが、上場時点で新株発行による現金調達823.74億円が予想され、平成26年3月に予定されている茂原工場J1ラインへの151.83億円の増設投資分を引いた671.91億円も暫定的に現預金として入れておきましょう。これにより、

EV = 6813.13 + 568.51 - (235.24 + 671.91) = 6474.49億円

以上より、EVは6474.49億円となります。

業績予想にEBITDAの予想が掲載されており、平成26年3月期が930.0億円となっています。

これにより、推定EV/EBITDA倍率は6.96であり、買収額の回収に7年かかる事になり、市場平均とほぼ同じ程度です。これは裏を返せばEVの元になる想定株価の水準が適正である事を意味します。なお、株価の割安感を測るPER(時価総額÷当期純利益)も18.6と市場平均の約15倍に近く、この点からも想定株価は妥当なラインと言えそうです。