「小回り3ヵ月、大回り3年」
(写真=株主手帳2015年6月号)

中西文行 株式会社ストラテジスト
【プロフィール】
法政大学卒業後、岡三証券入社。システム開発部などを経て、岡三経済研究所チャーチスト、企業アナリスト業務に従事。岡三インターナショナル出向。東京大学先端技術研究所社会人聴講生、インド政府ITプロジェクト委員。SMBCフレンド証券投資情報部長を経て13年に独立。ロータス投資研究所代表。


「小回り3ヵ月、大回り3年」

例年、5月17日前後に新聞報道などが上場企業の3月期決算を集計している。記録的な変化を見せたのは東日本大震災や原発稼働停止の影響を受けた後の12年3月期であり、全産業ベースで前期比13・3%最終減益となり、そこから立ち直る13年3月期予想は42・4%最終増益とV字回復であった。

アベノミクス相場の原点はこの業績の変化にあった。会社四季報による全産業ベース(上場3174社)の純利益(前期比)は、今期(15年1~12月)5・9%増、来期13・3%増である。多くの市場関係者が「16年3月期も2桁増益となりEPSは増加、足元のPERは割安で日経平均株価は3万円もありうる」との根拠であろう。

この増益シナリオを検証するのが、6月の株主総会。機関投資家は議決権行使ルールに厳格で、ROEなど資本効率重視の経営、株式価値の最大化と増益を図らなければ、取締役を信任しないだろう。また、株主還元重視で配当性向の厳守、自社株買いには賛成しよう。アイ・エヌ情報センターによれば、上場企業の自社株買い総額は、13年度約1兆9500億円に対して14年度は約3兆2900億円の見込みである。

15年度の自社株買いは、株主還元重視で4兆円以上となり、株価にプラスと予想する。無論、増益シナリオが確認できれば、株価にプラスだ。好決算を受けて東証1部上場企業の配当総額は15年3月期で約7兆3800億円(前期比7%増)と過去最高と見られる。

6月はボーナス月である。財務省が4月22日に発表した賃金動向調査によると、15年度に賃金を底上げするベースアップを予定している企業は、47・1%(前年度41・8%)に達した。ということは、ボーナスも増え消費に回る。金融機関もボーナス資金獲得のため、株式投信の拡販に努めるだろう。株式投信の設定は株価だ。配当金と賃上げで、ボーナス商戦に期待がもてる。個人消費が伸びれば、国内総生産(GDP)を押し上げ、株価にプラスである。

海外はどうだろうか。08年のリーマン・ショックの後、10年4月に表面化したギリシャやポルトガルの財政危機で世界が震撼した。15年に入り、再びギリシャがリスク要因として浮上している。

ギリシャは債券発行ができず手元資金が枯渇する中、7月に約48億ユーロ、8月に約33億ユーロの国債償還など資金需要が急増する。欧州金融安定基金(EFSF)のギリシャ向け第2次金融支援の実施期限は6月30日であり、これが履行されなければ、ギリシャのユーロ離脱が現実味を増す。

ただ、10年当時と異なり、欧州中央銀行(ECB)のOMT(ユーロ圏諸国の国債を購入する措置)や各国中央銀行のELA(緊急の流動性支援)などセーフティネットが整備されている。一時的に「逃避の円高」が起これば買い場と考える。

また、欧州連合(EU)は6月の首脳会議で対ロ制裁の延長を判断する。全会一致で決めるため、ギリシャの対応がカギだが、ロシアとギリシャは急速に接近している。すでにハンガリーは対ロ制裁延長に反対の立場を表明、対ロ制裁終了は株価にプラスだ。