全体評価:大企業の景況感は順調に回復したが、広がりには欠ける
日銀短観6月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が15と前回3月調査比で3ポイント上昇し、3調査(四半期)ぶりに景況感の改善が示された。
大企業非製造業の業況判断D.I.も23で前回比4ポイント改善しており、順調な回復となった。前回3月調査では、大企業製造業の業況判断D.I.が横ばいとなる一方、非製造業では2ポイント改善していた。
企業を取り巻く環境を確認すると、まず6月上旬に発表された15年1-3月期の実質GDP成長率(二次速報値)は2四半期連続のプラスとなり、その伸び率は前期比年率3.9%に達した。
伸び率については在庫変動の影響でかさ上げされている面があるうえ、GDPの水準自体も消費増税後の落ち込みを概ね取り戻した程度にすぎないが、消費が3四半期連続のプラスとなったほか、出遅れていた設備投資も大きく伸びるなど、国内経済が回復基調にあることを示す内容であった。
その後の経済情勢は強弱が入り混じっている。個人消費には勢いこそあまり見られないものの、増加が著しい訪日外国人の消費という強力な追い風が吹いている。
また、反動減の影響を強く受けてきた住宅着工にもようやく明るさが見え始めている。一方で、輸出は中国をはじめとする新興国経済低迷の影響を受けて弱含んでおり、生産は在庫調整の遅れもあって足踏み状態にある。
こうした中で、短観では、大企業において景況感の改善が示された。製造業では回復の兆しが見える設備投資関連業種などの改善が目立ち、非製造業では訪日外国人の増加の追い風を受けやすい小売や宿泊・飲食サービスの改善が全体を牽引した。
中小企業については、製造業が前回比1ポイント悪化の0、非製造業が1ポイント改善の4となった。製造業では改善が見られず、非製造業も大企業と比べて改善が小幅に留まる。中小企業ではかねてより人手不足感が強いほか、利益の改善が遅れているだけに、賃上げや円安に伴うコスト増が景況感の重石になりやすい。
先行きの景況感は企業規模によって方向感が分かれた。大企業では米国経済や国内消費の回復などへの期待から、製造業・非製造業ともに改善が示された。一方で、経営体力の問題から、先行きへの警戒が高まりやすい中小企業では、製造業で横ばい、非製造業で悪化が示された。
なお、事前の市場予想との対比では、注目度の高い大企業製造業については、足元・先行きともに市場予想((足元:QUICK集計12、当社予想13)(先行き:QUICK集計14、当社予想14))をかなり上回った。大企業非製造業については、足元は市場予想(QUICK集計22、当社予想は23)をやy上回ったが、先行きは予想(QUICK集計23、当社予想25))を下回っている。
14年度設備投資計画(全規模全産業、実績)は、前年度比4.3%増(前回は同4.4%増)と前回比でほぼ横ばいとなったが、焦点の15年度設備投資計画は、14年度(実績)対比で3.4%増(前回は同5.0%減)と大きく上方修正された。
例年、3月調査から6月調査にかけては、計画が固まってくることに伴って、上方修正される傾向が強いが、今回はこの時期として近年まれに見る大幅な上方修正が行われている。企業規模別では特に大企業、なかでも製造業において例年を大きく上回る上方修正となっている。
これまで力強さを欠いてきた設備投資だが、今回は15年度計画が大きく上方修正されているため、従来よりも勢いが感じられる内容と評価できる。好調な企業収益を背景に投資余力が高まっている中で、設備の老朽化や人手不足に伴う省力化投資需要、一部生産設備の国内回帰の動きなどが反映されたとみられる。
日銀は5月の金融政策決定会合において景気判断を「わが国の景気は、緩やかな回復を続けている」(従来から「基調」を削除)へと上方修正、先行きについても「緩やかな回復を続ける」としている。
今回の短観において、大企業で足元の順調な回復が確認されたこと、設備投資計画が大幅に上方修正されたことは、日銀の見方をサポートする材料になるだろう。
ただし、足元の景況感の改善は大企業に留まり、広がりを欠いている。また、今回改善が目立った大企業非製造業でも、先行きについては悪化が示されていることなど、気がかりな材料も存在している。
今回の結果は全体としては悪くはないが、日銀は引き続き慎重に動向を見極めるスタンスを維持するだろう。
また、金融政策との関係では、明日2日に発表される「企業の物価見通し」も引き続き重要となる。企業の物価見通しは、14年3月調査から開始され、これまでのところ、若干下方への動きはみられるものの、比較的高い水準をキープしている。
最近は消費者物価上昇率が低下傾向にある中で、日銀は「物価の基調は高まっている」とのスタンスを維持している。物価見通しは「物価の基調」を判断するうえで、需給ギャップなどと並ぶ重要な要素であるだけに、下振れの兆しが現れていないかが注目される。
もし下振れの兆しが現れたとしても、当面の追加緩和を促すほどのインパクトにはならないものの、日銀が警戒を強める材料にはなりそうだ。