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(写真=PIXTA)

◆アジアREITは、シンガポールのS-REITと香港のH-REITが時価総額の大半を占めており、必ずしも直接的にアジア新興国における経済成長の恩恵を期待できるものではない。

◆しかし、アジアREITが投資する不動産ポートフォリオをみると、シンガポールや香港以外にも国際分散が進んでおり、中国やASEANなどのアジア新興国の比率が高まっている。

◆また、アジアREITの不動産ポートフォリオのセクター配分では、オフィス比率の高いJ-REITとは対照的に、商業施設を中心に、オフィスやホテルなどのセクターにもバランスよく分散投資されている。

◆アジアREITファンドの普及により、日本国内からもアジアの不動産市場への分散投資が容易になってきた。これらにより、アジア新興国の成長性と分散投資効果の拡大を享受できれば有意義であるが、リスク管理上、不動産ポートフォリオの変化について継続的に把握することが重要となる。


S-REITとH-REIT中心のアジアREIT

アジアREIT市場は、海外投資家も幅広く参加できる規模に成長しており、各市場の時価総額の合計は、2015年6月末時点で11.7兆円(1)と、J-REITの10.6兆円を上回っている。このように、地域経済と共に成長が著しい印象のアジアREIT市場であるが、その成長性については以下の特徴を認識しておきたい。

アジアREITは、現在、6市場のREIT(2)で構成されているが、時価総額の約8割(3)をシンガポール上場のS-REITと香港上場のH-REITが占めている(図表-1)。

一般に、日本やオセアニアを除くアジアの不動産市場といえば、大規模な中国市場を筆頭に、ASEAN諸国やインドなど多数の新興国市場を含み、多様性に富んだ成長市場といえる。一方、アジアREIT市場は、不動産証券化市場が発達した国際金融都市のシンガポールと香港に偏った特殊な市場となっている。

成熟した先進国であるシンガポールと香港では、国内をみると、人口動態において少子高齢化が顕在化しつつある。これらの2カ国は、アジア地域の金融センターや事業統括拠点として、あくまでも周辺新興国の人口動態や都市化に基づく経済成長の恩恵を間接的に享受する立場でしかない。

また、シンガポールと香港は多数の欧米金融機関の進出先であるため、グローバル金融市場の影響を受け易く、さらに、世界有数の港湾都市として、世界の貿易動向から受ける影響も大きい。そのため、アジア経済自体が堅調であっても、欧米経済が悪化、停滞する局面では、シンガポールと香港の経済や不動産市場には、欧米の影響が表れ易い。

とはいえ、最近ではアジア各国の中国への輸出比率が高まるなど、アジア全体で中国経済への依存度が高まっている。シンガポールや香港では、中国本土資金の流入が投資市場に与える影響も大きいため、グローバル金融市場だけでなく、中国の金融政策などにも一層の注意が必要である。

アジア REIT の取引所別比率(時価総額ベース)