アジアREIT不動産ポートフォリオの国別比率

このように、S-REITとH-REITが時価総額の大半を占めるものの、アジアREITが投資する不動産ポートフォリオをみると、必ずしも簡単に2カ国で説明できるものではない。2013年のイオンリートの上場で(4)、J-REITでも海外不動産投資が始まったが、アジアREITについては、以前から多数のREITが海外不動産投資を実施している。

中国本土の不動産投資に特化したH-REITのYuexiuREITやHuiXianREITなどの海外特化型の他、国内不動産投資を主として一部の資金を海外不動産に投資しているREITも多い。最近でも、香港の商業施設投資に特化していたTheLinkREITが、北京の商業施設投資を始めるなど、S-REITとH-REITによる海外不動産投資は拡大が続いている。

この背景には、低金利下で運用資金が拡大する一方、シンガポールや香港の国土は狭く、投資対象となる収益不動産が不足する構造がある。そのため、物件取得による外部成長の追求において、各REITが海外不動産投資を検討することは自然な流れといえる。

また、最近まで事業範囲をほぼ国内に限定していた日本の不動産会社とは対照的に、シンガポールや香港の不動産会社は、海外での不動産開発に以前から積極的であった。そのため、S-REITやH-REITには、スポンサーである不動産会社から、彼らが開発した海外不動産を取得する機会も多い。

今回、各アジアREITの開示情報から、投資物件の評価額を立地別に集計し、アジアREITの海外不動産投資の状況を確認した。

◇アジアREIT全体

アジア6市場について、各REITが投資する不動産ポートフォリオを纏めてひとつのポートフォリオとしてみた場合(5)、かなり国際分散が効いていることが確認された(6)。シンガポール、香港、そして中国やASEANなどのアジア新興国の3地域にバランス良く投資されており、その上に他の先進国の不動産が約1割付加された形となっている(図表-2)。

アジア REIT 不動産ポートフォリオの国別比率(開示評価額ベース)

◇S-REIT

次に、少し詳しく各REITについてみると、まずシンガポールのS-REITは、現在、不動産に投資するビジネストラストを含めて37銘柄が上場しており、その過半数の27銘柄が海外不動産投資を実施している。各S-REITが投資する不動産ポートフォリオを纏めてひとつのポートフォリオとしてみた場合、海外不動産投資が約3割を占めることがわかった(図表-3)。

当然シンガポールが中心であるが、海外不動産投資は国際分散が効いており、中華圏やASEANのほか、他の先進国への投資も約1割を占めている。

S-REIT 不動産ポートフォリオの国別比率(開示評価額ベース)

◇H-REIT

次に香港のH-REITについてみると、海外での不動産投資は中国本土に限定されている。上場10銘柄のH-REITのうち、中国本土不動産に投資する銘柄は5銘柄に及ぶ。S-REITと同様にH-REIT全体の不動産ポートフォリオをみた場合、中国本土不動産の比率は4分の1強であった(図表-4)。

突出して規模の大きいTheLinkREITが、香港にほぼ限定して投資しているため、香港の比率が高くなっている。ただし、中国本土不動産への投資は増加しており、その比率は徐々に高まってきている。

H-REIT 不動産ポートフォリオの国別比率(開示評価額ベース)

◇M-REIT

また、S-REIT、H-REITほどの規模ではないものの、マレーシアのM-REITも海外不動産投資を実施している(図表-5)。

しかし、海外不動産投資は、上場15銘柄のM-REITのうちYTL-HospitalityREIT(7)に限定されている。M-REITは国内不動産投資を基本としており、今後も海外不動産投資が拡大するか定かではない。

M-REIT 不動産ポートフォリオの国別比率(開示評価額ベース)