2010年以降の取組み

ギリシャの年金制度に対しては厳しい意見が多く、実際に数多くの問題を抱えていたのは否定できません。しかしながら、財政改革の取組みが始まった2010年以降の年金制度の推移をみると、ギリシャも全く無策だった訳ではないことが分かります。

まずはその具体的な取組み内容を確認しておきたいと思います。この整理にあたっては、2015年3月に公表されたレポート「TheGreekPensionReformStrategy2010-2014Aleapforward」を参考にしています。

(1)年金受給開始年齢の引上げ

2010年に年金受給開始年齢を65歳に引上げたのに続き、2012年には更に67歳に引上げています。この水準は他のEU諸国並みと言ってよいと思います。なお、ギリシャでは2021年から年金受給開始年齢を65歳時点での平均余命によって調整することも決まっています。

但し、これがどのような効果をもたらすかははっきりしていません。また、以前には35年間の加入歴があれば、年金は満額支給されていましたが、この期間も40年間へと拡大しています。

(2)年金額を決める基礎数値の厳格化

ギリシャでは、年金額を決める際の大きな要素として、働いていたときの平均賃金と1年間ごとの年金確定率があります。このうち前者については、退職直前5年間の平均賃金から生涯の平均賃金に変更されました。

多くのケースで生涯平均賃金は退職前5年間平均を下回ることが予想されます。また後者については、以前の年2~3%から0.8~1.5%へと大幅に引き下げられました。年金確定率が下がれば、年金の満額水準が低下することになります。

(3)年金額のスライド幅に上限(CPI)を設定

以前は経済大臣の決定に委ねられていた年金額の物価スライド幅については、物価上昇率以下に抑えることとなりました。また、2010年から2014年の間、物価スライドは見送りとなっています。

(4)危険職種従事者に対する優遇の見直し

これまでギリシャには危険職種の従事者に対する年金の早期退職優遇制度(10年の就労で年金を満額受け取ることができる)がありました。

但し、その対象者の中には製菓業・理容業といったものが含まれており、技術の進歩等を反映していないと従来から批判されていたものです。この制度の見直しにより、優遇制度の対象者は3割程度減少したと言われています。

(5)社会保障番号(AMKA)の稼動

これまで個人ごとの年金受給額を正確に把握できていないことが問題視されていましたが、社会保障番号制度を活用することでより正確なデータの把握が可能になったようです。

(6)不正の取り締まり強化

どこの国にもあることだと思いますが、年金の掛金拠出に伴う不正、そして年金の受給に際しての不正も大きな問題でした。このうち前者については従業員数やその賃金に関する申告に偽りがあった場合には、1万ユーロ(約130万円)の罰金がルール化されました。

その結果、2013年の秋以降は、それまで減少傾向であった従業員数が純増(新規採用者数-退職者数)に変わっています。また後者については先に挙げた社会保障番号の導入に伴い、同番号を申告しない年金受給者に対する支払いを停止する等の措置をとり、二重受給などの防止に努めています。

(7)年金への課税強化

年金については、従来12,000ユーロ(約156万円)まで非課税となっていましたが、2012年にはこれが9,000ユーロ(約117万円)に引き下げられました。

(8)年金の返還要請

上記(2)で触れたように、以前の制度の元では高い年金確定率を使うことにより年金額が高くなっていました。こうした年金の受給者に対して、その年金の一部を返還するよう求めることも行われています。

上記の他にも取り組んでいるのですが、これ以上の紹介は省略します。こうした取組みはEUなどのトロイカの指導によるものですが、ギリシャが色々な努力をしてきたものと受け止めてよいのではないでしょうか。