賃貸住宅の防災力を強化するためにオーナー、管理会社、入居者がすべきこと

ここまで大阪市と墨田区の賃貸住宅における認定制度についてみてきたが、こうした制度以外に、賃貸住宅の防災力強化を促進するためには、何が必要であろうか。筆者は賃貸住宅に関わるオーナー、管理会社そして入居者それぞれに向けた、次の3つの取り組みが必要ではないかと考えている。

◆オーナーの意識を高める

1つはやはり、オーナーの意識を高めることである。資産である建物そのものが被害を受けないように対策をとることは、オーナーの関心事として当然考えられるが、東日本大震災以降は、災害時にそこで暮らす入居者の安全についても思いを向けているオーナーが増えているはずである。

入居者の安全を確保するためには、賃貸住宅の耐震性を高めるとともに、安全な避難経路や避難場所の確保、安心して避難生活を送るための備蓄、そして日頃から入居者同士、地域コミュニティとの連携が重要であることをオーナー自身が認識する必要がある。

そのために例えば、賃貸住宅オーナーによる団体が主体となって、そうした災害対策を学ぶ機会を作っていくことが考えられないであろうか。

◆管理業務として災害対策を標準化する

もう1つは、管理業務を行う管理業界として、備蓄の管理や防災訓練といった業務を標準化していくことである。

実際に被災したときに入居者の安否確認や避難誘導といった対応を取るのは管理会社である。そうした面から管理会社は、災害に備えて被害を最小限にすることの重要性を、おそらくオーナーや入居者より日頃から認識しているはずである。

東日本大震災を含めて、過去の災害時の経験から管理会社各社がそれぞれに得た教訓を基に、賃貸住宅管理業務として最低限取るべき災害対策を指針などに定めて、顧客となるオーナーに対し、業界全体でその重要性を理解してもらうことが必要である。

◆賃貸住宅入居希望者の防災に対する関心を顕在化していく

3つめは、賃貸住宅入居希望者の防災に対する関心を顕在化していくことである。東日本大震災を経験して、人々の防災に対する意識は確実に高まり、人とのつながりを求める意識も高まった。

大阪市の防災力強化マンション認定制度における分譲マンションの認定実績は震災以降増加しており、防災力を強化した住宅にお金を掛けてもいいとする人が実際に増えたことを示している。その点は賃貸住宅入居希望者も同じであろう。

賃貸住宅の居住者は比較的居住期間が短いことから、これまでは、建物の構造さえしっかりしていれば、備蓄や防災訓練のようなことはさしあたって必要ないと考える人が多かったかもしれない。

しかし、災害はいつ起こってもおかしくないことを東日本大震災によって人々は再認識したのである。短期間であっても、災害対策が重要だと考える入居希望者も増えたはずである。

そうした入居希望者自らが、賃貸物件を選ぶ際に災害に対する安全性や災害対策の有無について仲介業者に問い合わせ、比較検討した上でより安心感のある物件を選択していく。

このような自身のニーズの顕在化を入居希望者に期待したい。賃料を払うユーザーの多くがそれを求めるようになれば、オーナーも管理会社もそれを無視できなくなるであろう。