(この記事は2015年7月5日に「
Biglife21
」掲載されたものです。)
路線価が公表
今年から相続税が改正され、税金を払う人が増えるということでにわかに注目され始めた路線価が、国税庁から発表されました。アベノミクス効果で株価が上昇傾向を強めるなか、 東京や大阪では地価の上昇率が昨年より拡大しました。
路線価とは、相続税や贈与税を算出する際の基準となる地価のことです。毎年1月1日時点の地価を基に道路の一定区画ごとに1㎡当たりの評価額を求め、7月1日に国税庁が発表しています。地価の調査地点のうち住宅地や商業地、工業地などの標準宅地の前年からの変動率は、全国平均でマイナス0.4%です。マクロ的には日本の人口減少が地価に反映されているのでしょう。
都道府県別では、首都圏の1都3県や大阪府、愛知県など大都市圏で平均値が上昇しており、東京都や大阪府などでは上昇幅が前年より拡大しました。都道府県庁所在都市の最高路線価のうち最も高かったのは東京都中央区銀座5丁目の銀座中央通り、すなわち「鳩居堂」前で30年連続です。ここの路線価は上昇率も日本一で、14.2%アップしています。
最高路線価の上昇率が2ケタに達したのはほかに、名古屋市中村区名駅1丁目の名駅通り(11.5%)、広島市中区胡町(えびすちょう)の相生通り(10.2%)、大阪市北区角田町の御堂筋(10.1%)となっています。今年3月の北陸新幹線開業でにぎわう金沢市堀川新町の金沢駅東広場通りは9.3%アップで上昇率6位、富山市桜町1丁目の駅前広場通りは4.8%アップで同12位にランクインしました。
大都市圏を中心に地価が上昇している要因は、アベノミクス効果で株価などが上昇し、いわゆる"資産効果"でマンションなど不動産の需要が高まっていることです。
日銀による金融緩和で銀行の手元資金が増え、不動産投資や再開発事業にお金が回っていることも大きいでしょう(メガバンクが不動産担保ローンを積極的に貸し出しています)。さらに、東京都心では2020年のオリンピック需要も効いています。
しかし、地価が上がったからといって手放しで喜べない面もあります。というのも土地を持って死んでしまった場合、相続財産の課税価格が膨らむからです。これまでは資産家だけが払うものと相場が決まっていた相続税ですが、今年からは「普通の人」でも相続税を払わなければならないケースが増えてきました。
ただでさえ相続税改正で基礎控除が下がったのに、路線価がアップすればますます課税対象者が増えてきます。そうなると、地価の高い首都圏で土地を買うのを諦めたり、地方に移り住む人が増えるのではと思う人もいるかもしれません。
しかし、実際はその逆です。
不動産投資の事業という観点からは首都圏の不動産を持つほうが有利です。なぜなら、首都圏の土地は今後も値上がりが見込まれるのに対して、地方の土地は今後は値下がりが見込まれるからです。少子化の日本経済において、首都圏の人口だけが維持ないし増加し、地方の人口は減少の一途を辿ります。土地の需要は住んでいる人の数によりますから、人口が増える地域に土地を持たなければ不動産投資がうまくいきません。
また、相続税の節税の観点からも首都圏の不動産を持つほうが有利です。なぜなら、高くなったとはいえ土地の相続税評価は市場価格よりも低く評価されることが多いので、相続税評価と市場価格の乖離が大きな大都市圏の土地を持つほうが、大きな節税効果を享受できるからです。
さらに、地価の高い都心では同じ価格で郊外より狭い土地しか買えないため、330㎡や200㎡など適用面積に限度額が設けられている小規模宅地等の評価減の特例を適用できる割合が高いことが大きなメリットとなります。地価の高い都心部に住んでいる親の自宅の土地が狭いと、同居している子などが相続するときに居住用宅地の評価減として土地が8割引きになる特例をフルに利用できるケースが多くなります。
この特例の対象面積は330㎡までなので、郊外などで広大な一軒家を構える土地だと特例が使えない部分が出てきてしまいます。それゆえ、郊外の一軒家を売却して、都心部のタワーマンションに移り住むという高齢者の相続対策が増えてきています。
私は地方のお客様に相続対策のアドバイスをすることが多いのですが、地元の土地を売却して東京の不動産(マンション)を購入することを指導しています。
いつも聞く話に、「いまの東京は不動産バブルで、高騰しすぎているのではないか、東京オリンピックの後は不動産価格は下落するのではないか?」というものがあります。これについて私は、「多少は下落するかもしれませんが、相続税の節税効果を考えれば、大勢に影響はない」と考えます。
もちろん、理論価格を超える高値で購入してしまうと、大きな投資損失を被る可能性があります。しかし、理論価格自体が上がっていることについてはそれほど気にする必要はありません。なぜなら、相続対策として首都圏の不動産を取得しようとする需要が圧倒的に大きく、今後もそれが継続するからです。