(写真=PIXTA)
生命保険を使って相続税対策をすることができるということはよく知られています。ただ、どのような生命保険にいつ、いくらの保険料で加入するべきかを理解している人はほとんどいません。誰にでもあてはまる「絶対的な正解」はありませんが、そのヒントとなることをお教えしましょう。
生命保険金の非課税限度額と注意点
まず、税制上の基本的なルールを理解しましょう。生命保険金は、「みなし相続財産」として相続税の課税対象となります。そして、死亡保険金の受取人が相続人である場合、「法定相続人の数×500万円」までが非課税となり、その額を超えた分についてのみ相続税の課税対象財産となります。
例えば、配偶者と子供2人いる世帯では、法定相続人が3人です。そのため、非課税限度額は、500万円×3人=1,500万円となるわけです。ただし、養子を法定相続人としてカウントするためには、次のような条件があります。
・実子がいる場合、法定相続人にできる養子は1人まで
・実子がいない場合、法定相続人にできる養子は2人まで
また、やや先の話になりますが、「非課税限度額の引き下げ」の可能性もあります。これまでにも、「生命保険金の非課税枠を引き下げる」という議論がなされてきています。
今のところは見送られていますが、相続増税の一環として、そう遠くない未来に実行される可能性もあります。その場合は、「法律改正後に亡くなった被相続人の財産」から適用されることが想定されます。それでは、以上のルールを理解した上で、いろいろなパターンを見ていきましょう。
※なお、相続税対策がテーマのため、なにもしなければ相続税がかかる程度の資産をすでに持っていることを前提として記事を書いています。
【パターン1】60代以上のリタイア世代の場合
リタイア世代にできる方法としてもっともポピュラーなのが、「一時払生命保険」への加入です。
一時払生命保険を活用するメリットは、高齢者であっても、「高額の生命保険金を受け取る」契約をしやすいということです。そのため、生命保険金の非課税限度額にあわせた保険契約をすることが可能です。現に、80歳を超えても、健康告知なしで加入できるものも存在します。
一方、高齢者でも加入できる「月払い」タイプの生命保険では、十分な保険金を用意することができません。例えば、ある生命保険会社の健康告知不要型であれば、60歳で毎月1万円の保険料を(男性が平均寿命の80歳まで生存したとして20年間)支払うタイプでも、死亡保険金は160万円くらいにしかなりません。(ちなみに保険料合計は約240万円で逆ザヤになってしまいます)
非課税限度額をフル活用するためには、一時払生命保険が有効だと言えます。ただし、注意しておかなくてはならないのは、「余剰資産で加入する」ということです。
一時払生命保険は一般的に、加入から4~5年以内に解約した場合、解約返戻金が払込保険料を下回ってしまいます。病気で長期入院となって保険を解約…となった場合には、資産を減らしてしまう可能性があります。
ですから、誰にでも加入するメリットがあるわけではなく、銀行にただ目的もなく預けて眠りっぱなしになっている資産を有効活用する方法なのだと認識しておきましょう。
【パターン2】子供が手を離れつつある50代の場合
「まだリタイアはしていないけれども、子供は大学に入ったし…」という50代くらいの方は、どうすればいいのでしょうか。
子供が「金銭的な意味で」手を離れるのは、子供が結婚して家庭を持つ頃です。つまり、それまでは子供のことで、急に多額の出費をしなくてはならない場面(特に、結婚式や新居への援助)が出てきます。
急な出費に備えておきたい金額が多くなるため、なにがなんでも一時払生命保険に加入するのが得策というわけではありません。あなたがリタイアするまでは、非課税限度額の範囲におさまる程度の「定期保険」に加入する方法もあります。
定期保険は掛け捨てタイプのものが多い生命保険ですが、比較的少なめの保険料で、大きな保険金額を設定することが可能です。そして、子供が完全に手を離れた後、または、リタイア後に、一時払生命保険への加入を検討するとよいでしょう。
【パターン3】まだまだ子育て中の30~40代の場合
あなたが30~40代でまだまだ若い場合は、相続のことをあまり意識しなくても構いません。ただ、いずれは相続のことを考えていかなくてはならないので、その準備を始める期間だと考えておくのがよいでしょう。
生命保険で対策しておくことは、相続税よりも、あなたに万が一のことがあった場合に当面の収入を確保することを目的にしておいた方がいいかもしれません。そのためには、定期保険特約が付いた終身保険や、収入保障保険が向いているかもしれません。
ただ、このタイプの生命保険は仕組みが複雑になっていることが多いため、保障内容を納得いくまで説明してもらうように心がけましょう。
また、生命保険とは関係なくなってしまいますが、子供たちが幼いころから、基礎控除の範囲内で贈与をしておくことが重要です。不動産や金融資産を多く保有している場合は、税理士に相談した上で資産管理会社を立ち上げるなど、生命保険だけでない総合的で長期的な税金対策をする方が効果があるでしょう。
まとめ
生命保険を活用した相続税対策に、王道はありません。あなたの職業、資産のポートフォリオ、家族構成など、さまざまな条件に応じて、とっておくべき対策は異なってきます。上に書いたようなモデルパターンを参考にしたり、専門家の意見を取り入れるなどして、万が一の場合に困ることのない準備をしておきましょう。
奥田 周年 (おくだ ちかとし) 税理士。
OAG税理士法人
資産税部 部長
執筆書籍は、遺産相続と相続税がよくわかる本(日本文芸社:監修)、
ずるいぞ!その相続(かんき出版:編著)、Q&A相続実務全書(ぎょうせい刊: 共著)等多数。相続税・贈与税の専門税理士でチーム相続を組織し、
メディア
を主宰。
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