(写真=PIXTA)
アベノミクス成長戦略でも投資の重要性が指摘されている医療分野。中でもその可能性について議論されてきた医療ツーリズムだが、日本ではなかなか広がりを見せない。賛否分かれる医療ツーリズムは日本でビジネスと成長するのだろうか。
医療ツーリズムに対する誤解
2008年ごろから日本でも注目を集めるようになった医療ツーリズム。当初、「Medical Tourism」が「医療観光」と訳されたこともあって、「健康診断で日本を訪れた外国人に、ついでに観光してもらってお金を落としてもらおう」というとらえ方が主流だった。
しかし本来の医療ツーリズムは、自国で適切な治療を受うけられない患者が健診や療を受けるために他国へ渡ることを意味する。たとえば、アメリカなど自国の治療費が高額な国の患者や、イギリスの様に診断後の治療までの待機時間が長すぎる国の患者、中国や中東産油国、ロシアなど、十分な医療施設がない国の患者たちが他国で治療を受けるというものだ。彼らの目的は治療を受けることであって観光ではない。
アジアに多い医療ツーリズム先進国
こうした需要に対し、高度で適切な価格の医療サービスを提供している医療ツーリズム先進国として挙げられるのが、タイやインド、韓国などだ。
たとえばタイのバムルンラード国際病院やバンコク病院では、多数の国・地域からの患者を受け入れるため、言語や文化、宗教への対策がしっかりとなされている。患者のビザ申請などの支援サービスも充実している。
またインドのアポロ病院やナーラーヤナ・フリーダヤーラ病院、アラヴィンド眼科病院では、独自の手術方式や経営手法により、アメリカと比べてもそん色のない、高い成功率の手術を1/10以下の価格で提供。海外の患者から高い評価と人気を集めている。
ほかにも、韓国では主に美容形成のニーズが多く、ソウルや釜山などに年間数十万の美容整形希望者が訪れている。
タイやインドの病院の多くは株式会社化しており、また患者の信用を得るために国際的医療評価であるJCI (Joint Commission International)認証を取得している。
この様に医療ツーリズム先進国においては既に競争優位性が確立されている。
海外の患者受け入れに消極的な日本
日本の病院やクリニックには、海外の患者を積極的に受け入れようという姿勢は見られない。その理由は、日本には国民皆保険制度があることだ。慣習を変えてまで外国人の患者を呼び込もうというモチベーションが働かないのだ。
しかし、日本でも医療ツーリズムに興味を示し、実際に実験的に医療ツーリズムを公表せずに行っているところもある。社会保障費の抑制が叫ばれる中、病院経営を成り立たせるために、競合施設に先駆けようと考えているからだ。
日本の病院が持つ競争優位性と投資価値の有無
医療ツーリズムが日本でビジネスとして成長するための課題や問題点も、既にいくつも浮き彫りになっている。1つは日本語を流ちょうに話し、かつ医療の知識を持つ中国人スタッフの雇用。2つ目は第患者が病院に来るまでの間や、病院を離れてから必要になるファシリテーター、コーディネーターと呼ばれる専門の通訳などスタッフの確保。そして3つ目は、患者が来院直前になってキャンセルする、いわゆる“ドタキャン”の問題や、患者や家族が院内で起こすトラブルだ。
このように問題や課題はあるものの、日本が医療ツーリズムで他国に勝てる要素はある。
まず日本は世界に類を見ない医療機器大国である。CTやMRIと言った診断装置の保有台数は世界でも圧倒的にトップクラスであり、また重粒子線治療器機、陽子線治療器機、放射線治療器機をも保有する。これらは“体を切らずに治す”非侵襲治療を癌患者に提供できるので、海外の癌患者が日本を渡航先として選ぶ可能性は高いはずだ。
実は日本は、先進国では普通に使える医療機器が使えない、いわゆる「デバイス・ラグ」と言われる状況にある。このため、医師達は最先端の医療機器を使わずに患者を治そうとしてきた。その結果、治療技術は世界でもトップクラスといえるほどだ。特に心臓血管治療や脳神経血管内治療におけるカテーテル治療の技術は抜きん出ている。
日本における医療ツーリズムの競争優位性はここにある。こうした、非侵襲(または低侵襲)の医療機器を開発している企業や、株式会社化して次の時代を見据えている病院に投資する価値は十分ある。
日本の病院、クリニックには、外国からの患者を受け入れるだけの高い技術やホスピタリティがある。中国からの観光客の「爆買い」が話題の今、日本全国の観光地や小売店は中国からの買い物客でいっぱいだ。日本の病院が本腰を入れれば、今度は病院が外国人でいっぱいになるかもしれない。(ZUU online 編集部)