(写真=PIXTA)
人口減少社会の到来と深刻化する空き家問題等、今我が国はこれまでのスクラップ&ビルドの住宅政策を見直し、欧米にならう既存のストック住宅の流通が急務です。そのような背景の中、中古住宅・リフォームトータルプランといった大枠での施策からより実態に即した施策へと動きが活発化してきました。
中でも、先だって報告された自民党政務調査会の中古住宅市場活性化小委員会がまとめた『中古住宅市場活性化に向けた提言』の内容は、実効性も伴い市場への大きな影響を与える内容となりました。今回は、このまとめられた提言を基に中古住宅市場のこれからを考えてみたいと思います。
失われた500兆円もの国民資産
これまで我が国においては、統計が残る1969年以降、年間約20兆円もの住宅投資を行った結果、約862兆円以上の累計投資になっています。しかし、2011年時点における住宅資産額は約343兆円。ざっと500兆円以上もの投資が消えたことになります。他方、アメリカにおいてはどうかと言えば、住宅投資の累計額が、2008年において約12.6兆ドルに対して、住宅資産の合計額が13.7兆ドルと上回っています。
中古住宅・リフォーム市場拡大により、今までのように無為に失われてきた国民資産たる住宅投資を、その本来の実力に見合う分だけ価値を回復させることはとても重要だと言えます。適切な資産価値評価により円滑な資金化を実現し、欧米に比べて立ち遅れた我が国の中古住宅市場の拡大につなげていかなければなりません。
豊かな住生活の実現と新たな市場育成
かつてのようなマイホームありきの人生設計ではなく、様々なライフステージに応じた住み替えといった豊かな住生活の実現は、国民の住まいの選択肢を増やすことになります。
資産を有する高齢者や、所得の伸び悩みにより住居支出の割合が拡大している若年層が、これまでのように新築住宅購入一辺倒ではなく中古住宅等の選択肢が増えるということは、ライフステージに応じてニーズに即した住み替えの実現に寄与し、一層豊かな住生活を実現できるようになるのです。
また、都市郊外の団地などストックの有効活用を進めることは、多世代間の交流が促され健康的な暮らしやコミュニティの形成にも貢献するでしょう。そして、住宅ストックの質の向上も期待されるリフォーム市場の拡大を併せ講ずることにより、国民消費や国内投資が拡大し、経済の再生と持続的発展にも繋がって行きます。
さらに、今後ますます増大する空き家を、地方自治体との連携や、その流通・活用が促進されることで、都心の再生、地方部への住み替えの促進効果も期待されることでしょう。
良質な中古住宅の流通に向けて
中古住宅の建物価値が適切に評価されることで新たなニーズが生まれ、市場の活性化が促され、新たな住み替え行動が刺激されることにより、リフォーム市場への波及効果やリノベーション等のビジネスモデルの更なる加速が期待されます。
築20年から25年程度で価値を失うというこれまでの考え方ではなく、新築の段階においても将来の中古住宅市場での流通を視野にいれた長期的な住宅供給が進んで行くこととなるでしょう。
こうした背景を踏まえ、今回自民党によりまとめられた『中古住宅市場活性化に向けた提言』では、施策のターゲットを明確にして重点的な項目として今年度内に実施すべき「早急に取り組むべき事項」と2~3年以内を目途に実現すべき「中期的に取り組むべき事項」として整理されています。では、次にそれら8つの提言を解説します。
◆提言1 「囲い込み」の解消に向けたレインズルールの抜本的改善
売主から専任で売却を受託した不動産会社は国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営しているコンピュータ・ネットワーク・システムである「レインズ」に物件情報登録の義務があります。しかし、義務であるため登録はするものの、自ら買主をみつけることによって売主・買主の双方から仲介手数料を取ろうとすることを目的に、他社への紹介を拒む行為である「囲い込み」が常態化しており、売主にとっては、広く買主へ情報が行きわたらず、円滑な売却が実現しないという問題が起きています。これらを排除するための管理機能の導入及び処罰の厳格化に着手するとしています。
◆提言2 インスペクション等の活用による情報非対称性解消に向けた新たな取引ルールの構築
中古住宅の購入に際して最大の不安要因である建物の状態や管理状況が分からないという不安を払拭するため、第三者による建物検査(インスペクション)の更なる普及に関する取組みを行います。また、売主によるリフォーム等の履歴情報の開示の重要性も指摘されています。そして、建物の質という観点から、劣化対策や省エネ対策に関する評価基準を策定し中古住宅の住宅性能表示制度の充実を図ります。
◆提言3 長期優良住宅の普及、一般住宅のリフォーム履歴等の保存・活用
平成19年「200年住宅ビジョン」に基づき制定された長期優良住宅を、中古住宅にも拡大し、中古住宅の長期優良化に係る認定制度を創設します。また、住宅の質や、長期優良化に欠かすことの出来ない維持管理を推移するために、住宅関連事業が履歴情報を広く活用できるような住宅履歴の保存・活用の構築を目指すとしています。
◆提言4 担保評価を含む「20年で一律価値ゼロ」と見なす市場慣行の抜本的改善
これまでの我が国における木造住宅であれば築後20~25年で価値ゼロと評価する慣行を改め、構造等部位ごとに価格を反映し、再調達原価を把握したうえでの適切な耐用年数を算出する価格査定システムの構築を行います。耐久性の高い住宅やリフォーム等が適切に実施された住宅については、より長期的に使用することが可能であり、現に築30年超の住宅取引が急増している市場の適正化を目指します。
◆提言5 中古マンションの管理情報の開示
マンションの取引においては、専有部以外の共用部の情報開示が進んでおらず、屋上や給排水、電気設備等に関する情報が購入判断の時点において提供されない場合が多い。こうした購入後のトラブルとなる管理状態の実態や修繕履歴、長期修繕計画といった項目の裏付け等、マンションの管理情報を購入者に対して、購入者の求めに応じて開示するよう促進していくとしています。
◆提言6 不動産総合データベースの構築
米国においては、通称MLSという、様々な物件情報や不動産関連情報が集約された仕組みがあり、消費者に広く情報開示されている。我が国ではレインズというシステムがあるものの、法令制限やハザードマップ、土地の利用履歴等についての情報は、様々な機関に散逸しており、消費者に伝わりづらい状態となっている。現在、この日本版MLSとも言える「不動産総合データベース」のプロトタイプシステム構築が完了し、今年度横浜市において試行運用しており、平成30年に全国へ普及することを目指しています。
◆提言7 新たなビジネスモデルとその環境整備
中古住宅市場の拡充には新たなビジネスモデルの普及も必要である。例えば、高齢者が保有する住宅資産の有効活用という視点からは、保有不動産の担保力によって老後資金等のねん出も可能となるリバースモーゲージ制度の普及も更に具体的に進める。また、宅建業者とインスペクション業者、リフォーム業者、不動産鑑定士、金融機関等との連携により、消費者にとって有益な様々な関連サービスが提供されるといったビジネスモデルの普及を図るとしています。
◆提言8 増大する空家市場での流通・活用の促進
全国に広がる820万戸にも及ぶ空き家の有効活用は、都市部のみならず地方創生という観点からも需要である。コンパクトシティ等の街づくりとの連携を促進することはもちろん、個人住宅の総合的な有効活用に関する相談や提案業務を提供する体制整備を行います。中古住宅の流通促進を通じ、空き家の解消及び地域の活性化を目指す、民間事業者のビジネスモデルを支援するとしています。
以上、8つの提言について解説しましたが、これらの内容は実際にはこれまでの様々な施策の中で支援されてきたものですが、ここで敢えてこれらを纏め今後の方向性を示したことに大きな価値があるといえます。これらの提言を政府・与党は早ければ来年の通常国会で宅地建物取引業法の改正を目指すほか、来年度予算概算要求に反映させる方針です。
我々宅建業者は、消費者に比較してその情報の優位性にあぐらをかいてきた背景があります。しかし、これらの情報格差は必ずや縮まり、あるべき宅建事業者としての経営指針やサービス提供、そしてその質と継続性が問われるようになっていくと言えるでしょう。
高橋 正典
【著者プロフィール】
不動産コンサルタント。株式会社バイヤーズスタイル代表取締役。2000件以上の不動産売買に携わるなど、現場を最もよく知る不動産コンサルタント。
NPO法人住宅再生推進機構専務理事、一般社団法人相続支援士協会理事。著書に「プロだけが知っている!中古住宅の選び方・買い方」朝日新聞出版、「不動産広告を読め」東洋経済新報社他
※本記事は週刊ビル経営8月10日号に掲載されたものです。(記事: 週刊ビル経営 )
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