NISA(ニーサ)少額投資非課税制度を徹底解説

(写真=PIXTA)

「NISAをはじめた」と言っている人が、あなたの周りには増えていないだろうか。2014年にスタートしたNISAによって、個人の資産運用は大きな転換期を迎えている。今回は、このNISAについて解説しよう。

NISAとは

2014年にスタートしたNISAは、イギリスで成功しているISAをお手本にした、言わば「日本版ISA」である。略さずに書けば「少額投資非課税制度」。要するに一定額までの投資にかかる税金を免除する制度なのだ。

そもそも投資にはどのような税金がかかっているのだろうか。投資による利益には、主に2種類ある。それは、投資商品の購入時と売却時の差額がプラスとなったときに出る「売却益」と、投資商品を保有することによって定期的に得られる分配金などの「配当収入」だ。

これら2種類の利益に対して、本来ならば所得税及び復興特別所得税と住民税を合わせて20.315%の税金が課される。
※ここでは計算の簡略化のため20.315%=20%としている。

NISA口座を開設すると、この20%の税金が、一人当たり毎年100万円に限り、非課税となるのだ。例えば、100万円の株式を購入した人が200万円で売却したとしよう。

本来ならば利益の200万-100万=100万円に対して100万×0.2=20万円の税金がかかる。この20万円がNISAによって免除されるのだ。20歳以上で日本に在住している人なら全員がNISA口座を開設できる。

このため、夫婦二人だと非課税投資枠は2倍。2016年には20歳未満の子ども名義でも口座開設できるようになる。家族全員分が非課税になると考えると、一般の家計に与えるインパクトは大きい。なお、このNISAでは投資信託や上場株式等が非課税対象となり、定期預金などは対象外である。

NISAの仕組み

それでは、NISAを始めると具体的にどのようなことが可能になるのだろうか。NISA口座を開設すると、まずはその年の分として非課税投資枠が100万円分設定される。そしてNISA口座を持ち続ける限り、2023年まで毎年100万円の非課税投資枠が設定される。

つまり、年が変わるごとに毎年100万円の非課税投資枠が新規増額されるのだ。この枠内で購入した投資信託や上場株式で得た売却益と配当収益が非課税となる。注意したいのは、使用しなかった非課税投資枠は年が変わると消滅することだ。「未使用枠の引継不可」と呼ばれる。非課税投資枠はなるべく年内に使い切りたい。

また、NISA口座で投資商品を購入し年内に売却しなかった場合、先5年間に限って売却益と配当収益は非課税のままであり続ける。この制度を「ロールオーバー」と呼ぶ。

このため、NISA口座で投資商品を毎年100万円分購入し、ロールオーバーを続けた場合、5年目には500万円分の売却益と配当収益が非課税となるのだ(下図を参照)。

なお、5年後にロールオーバーできなくなった商品は、時価100万円を上限に新規の非課税投資枠に移すか、売却しなければならない。

NISA ニーサ ロールオーバー

NISAのメリット

それでは、改めてNISAのメリットを整理しよう。

【100万円まで非課税対象】

先にも述べたが非課税投資枠いっぱいの100万円で株式投資信託を購入したとする。そして、基準価額(株式の株価にあたる、投資信託の時価のこと)が上昇したので同年内に200万円で売却したとする。このとき発生した利益は200万-100万=100万円だ。

NISA口座以外なら20%の税金が引かれて受取金額は80万円となるが、NISA口座なら100万円をまるまる受け取れる。その差は20万円で、これは大きなメリットであろう。

もし年内に基準価額が下落していたとしても、5年間はその投資信託の非課税期間が続くので、売却せずに持ち続けるという選択肢がある。その間の値上がりを待ちながら、配当収益の非課税という恩恵を受けられるわけだ。

NISAのデメリット

NISAには通常の口座(特定・一般口座)と比べた時に2つのデメリットがあると考えられる。

【損益通算ができないこと】

「損益通算」とは、2つ以上の投資商品の取引において、同じ年に利益がでたものと損失がでたものがあった場合、そのプラスマイナスを通算した金額をもとに課税額を計算する制度のことだ。

たとえば、A株式で20万円の利益を得てB投信で15万円の損失を被った場合、通常であれば20万-15万=5万円の利益に20%の税金がかかって、受取額は5万×(1-0.2)=4万円となる。

しかし、もし利益が出たA株式をNISA口座以外で運用していて損失があったB投信をNISA口座で運用していたなら、損益通算はできず、A株式の利益に20%の税金がかかることになる。

つまり、20万×(1-0.2)=16万円がA株式についての受取金額で、これをB投信の損失とトータルすると、最終受取金額は16万-15万=1万円だ。NISA口座を使わなかったときの4万円よりもかなり下回ってしまう。

【損失の繰り越しができないこと】

「損益通算」は前述のように、同じ年内の別々の投資商品の損益を通算する制度である。これに対して「損失の繰り越し」は、別々の年の損益を通算する制度だ。

2015年にトータルで50万円の損失が発生し、翌2016年にトータル100万円の利益を得た場合を例にしよう。

2016年だけで考えると100万×0.2=20万円が税額となり、受取金額は80万円となるが、損失の繰り越しによって利益は2年間の通算で100万-50万=50万円となり、税額は50万×0.2=10万円で受取金額は90万円となる。その差は10万円にものぼるのである。

通常の口座ならこの損失の繰り越しができるのだが、NISA口座で発生した損失については、この恩恵が受けられないのだ。NISA口座のみで投資を行うなら、気にする必要はないが、他にも口座を持ち投資を行う人は注意しておいたほうがよいだろう。

NISAの注意点

その他、NISA口座開設にあたり注意しなければならない点について以下に示す。

【NISA口座は年間1人1口座】

NISA口座は1人1口座と決まっている。このため、2つ以上の金融機関で同時にNISA口座を開設することはできない(NISA口座の開設時には重複開設でないかチェックされる)。

以前は一度NISA口座を開設すると、実質4年間は金融機関を変更することができなかったが、2015年から、毎年新たに別の金融機関で口座開設できることになった。

まず金融機関Aで口座開設して上限100万円の非課税枠の投資をした場合、次の年には別の金融機関Bで新たにNISA口座を開設できる。

その際、Aの100万円はそのまま最長5年間非課税で保持することができるが、売却以外の新規の取引はできない。なお、銀行では株式が購入できないことも知っておこう。

【申請手続きについて】

NISAの口座開設申請手続きには申請者本人の住民票が必要となる。通常の口座開設申請手続きであれば本人確認書類(運転免許証・健康保険証・パスポート等)のみで申請可能であるが、NISA口座の開設申請では住民票の提出が求められる。

しかし住民票については各証券会社が住民票取得代行サービスを行っているため心配はいらないだろう。

これは、NISA口座を開設・維持には税務署が交付する「非課税適用確認書(確認書)」が必要にとなるためであり、この確認書を申請するために、住民票の写しを提出する必要があるためだ。

NISA口座は上述した通り、年間1人1口座と定められているため、税務署が申請者本人が実在しており、NISA口座を1つしか所有していないかどうか確認する必要がある。

2016年のNISA変更点

政府はこのNISAの制度を2016年からさらに拡充する方針だ。改正点は主に下記の2点である。

【非課税投資枠が年間120万円】

これまで年間100万円だった非課税投資枠が、年間120万円に増額される。なぜ120万という中途半端な数字かというと、NISA口座で毎月一定額を上場投資信託を運用する人が多いからだ。

上場投資信託で毎月の積み立てをしている人にとっては、12か月で割り切れない100万という金額は使い勝手が悪い。120万円となることによって、毎月10万円分の積み立てが可能になるというわけだ。

【子ども版NISA】

未成年を対象に、毎年80万円の非課税投資枠が与えられる子ども版NISA口座が開設できるようになる。例えば夫婦と未成年の子ども2人の計4人世帯の場合、これまで夫婦の100万+100万=200万円だった非課税投資枠が、家族4人合計で120万+120万+80万+80万=400万円となり、その差は2倍である。大幅な制度拡充だと言えるだろう。

データで見る年代別NISA口座開設者

ここで、NISAの2015年3月現在の年代別口座開設者の割合を見てみよう。まず、口座開設者のうち60歳以上が合計55.7%を占めている。NISA買付額でも60歳以上は61.0%を占めており、これらのことからNISAの制度をもっとも活用しているのは高齢者であると言える。

さらに言えば、80歳代以上のNISA利用はさほど多くないので、退職金などのまとまった金額の資産をNISA口座で非課税運用して老後に備える高齢者の姿が浮き彫りになっている。

ただし、2014年度末からみた口座開設者数の増加率では若い世代の方が多い。特に20歳代は14.1%だ。住宅購入や子どもの教育などの出費に備える若い世代にも、NISAという制度が浸透しつつあるということだろうか。

NISAの使い方とおすすめ投資商品

実際にNISA口座を開設したら、どのような投資商品で運用すれば良いのか。このことについて解説する前に、実際にNISA口座を開設した人は何に投資しているのかを確認しよう。

まず、1位が投資信託である。これが全体の66%を占める。2位が上場株式であり、この2つでNISA口座の買付額の97%を超える。つまり、投資信託と株式が買われているのだ。

NISA口座で投資信託

損失の通算ができないということが、NISA口座のデメリットであった。このデメリットを回避するためにNISA口座の開設者は投資信託を購入していることが予想される。これは、投資信託であれば分散投資による低リスク運用が望めるからだ。

一つの企業の株式や一国の債権など、集中投資をすると上手くいったときのリターンも大きいが、損失が出るリスクも大きいと言われる。投資信託により複数の株式・債権・REIT・コモディティなどへの分散投資によって、リスクは低減できるのである。

また、上場株式を購入するとなると買付額は最小単位でも数万円~数十万円、百万円を超えるものも多くあり、100万円の投資枠で分散投資は容易ではないかもしれない。

この点、投資信託は最小で1万円前後からなど小口で投資が可能であり、株式や債券、REITなどから投資対象を選ぶことも、これらすべてのバランスを取った投資信託を選ぶこともできる。

ただし、非課税の対象となる利益は好成績でも10~15%、実際には5~10%程度であるため、NISAをフルに活かしているとは言えないかもしれない。

NISA口座で上場株式

これは投資信託の例と正反対の理由となる。NISAをフルに活かす、つまり非課税投資枠の100万円を最大限に利用しようという考え方だ。

投資信託で上がる利益は前述のとおりだが、上場株式であればより大きな売却益が見込めるだろう。仮に株価が200万円に上昇したときの節税額は(200万-100万)×0.2=20万円だ。

ただし、もちろんのこと上場株式の少数買いは、大きな損失を被る可能性と常に隣り合わせである。損失が出た場合はNISAを有効活用することは難しいため、注意が必要だ。

NISA口座を選ぶ3つのポイント

ここまで、NISAの仕組み、メリット・デメリットや使い方について触れてきたが、次はNISA口座を選ぶための3つのポイントについても説明していこう。

【投資可能な商品】

銀行に口座を開設すると、投資信託は購入できるが株式は購入できない。株式を購入したいのであれば、証券会社への口座開設が必要だ。また投資信託に関しては、金融機関によってラインナップが異なる。こちらにも注意したい。

【売買手数料】

概して店舗型の証券会社が高く、ネット証券は安い。また、それぞれのなかでも「高額取引が割安」や「低額取引が割安」などの特徴がある。自分が行う予定の取引に応じて選択しよう。

【NISAキャンペーン】

「NISA口座を開設した人の中から抽選で○○人に100万円!」や「全員に○千円!」などのキャンペーンが各金融機関では行われている。これらを比べるのも選択材料のひとつだろう。

NISA口座を作るまでの簡単4ステップ

実は、一般の口座を作るのとは違い、NISA口座は税務が絡んでいるために、開設には手順と時間がかかる。これについて順を追って解説したい。

① NISA口座を開く「申請書」を提出

まずは、口座をすでに持っている場合はその金融機関にNISA口座を開くための「申請書」を提出する。申請書は各金融機関で用意されているものを使おう。なお、NISA口座を開きたい金融機関に口座を持っていなかった場合、通常口座をその金融機関に開設することが必要だ。

② 「住民票の写し」を提出

次に、区役所や市役所で取得した「住民票の写し」を提出する。なお住民票は住民票代行サービスを使えば証券会社がかわりに取得してくれる。これは便利なシステムだ。

③ 税務署にてNISA口座が重複していないかをチェック

NISA口座は1人1口座しか開けない。税務署が重複して口座開設していないかをチェックする。これは金融機関からの連絡により税務署がチェックするものなので、申込者側ですることはない。

④ NISA口座が開設

以上の手続きのために自ら住民票の写しを提出した場合でも2~4週間が必要となる。この間にお目当ての株式が大幅に値上がりすることもある。まだ投資先を決めかねている場合でも、余裕を持ってNISA口座開設の手続きを進めておくのがよいだろう。

需要に合わせて変化するNISA

これまで解説してきたNISAは、非課税投資枠を設定することで個人投資家による投資を促進するための制度である。社会保障の不安や物価の上昇が問題とされる中で、個人がお金を預貯金から投資に移して資産を増やす必要性は高まっていると言えるだろう。

2014年のNISA元年から消費者需要に合わせて大きくサービスが追加されているNISA。投資人口の少ない日本でも、NISA導入を機会に少額から投資を始める人も増えていくだろう。

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