金融資本主義と電力業界への怒り

◆2つの怒り

東京大学法学部在学中に「株式会社ネットワークインフォメーションセンター」を友人と起業し、コンタクトセンター、IT、動画ニュース、ブライダル、チョコレート、飲食など様々なビジネスの立ち上げ、経営に関わってきた同氏。

環境問題解決に取り組む学生時代からの友人が起こした株式会社ZEエナジーには、まず社外取締役として加わったのち、2012年に代表取締役に就任した。発電・売電ビジネスに可能性を感じ、社長になることを決めた背景には「2つの怒り」があった。

◆金融資本主義への疑問

1つめは、金融資本主義に対する怒りだ。生き方の根底に「フェア」という価値観を持つ同氏。ここで言うフェアとは、リスクに挑戦し、汗を流して頑張った者が多くを手に出来るチャンスの平等が守られているという意味だ。

例えば1千万円の資金で事業を行い、年間30万円の利益が出た場合と、銀行に1千万円を預けて金利として30万円を得る場合。世の中に対して与えるバリューを比較すると、消費者がその商品・サービスで喜びを感じ、雇用が創出され、税収が上がり、仕入業者への支払い等のお金を廻し、経済を活性化させるなど、前者の方がはるかに高い。

しかし、資本家からは、あくまで同じ30万円の儲けと見做されるのが金融資本主義だ。ギャンブルが多くの国家や宗教で禁じられているのは、人間の勤労意欲を減退させるからだが、株式投資や為替投機、と名前を変えた途端にそれが許されてしまう。お金を持っている者が、自分で汗を流さず、他者に便乗して資本を元手に楽に大金を手にする。

金融資本主義はグローバル過剰の世界を生み出し、実体経済で世界に1年間に作られるGDPの10倍以上ものマネーが世界中に溢れ、実体経済を脅かしている。こうした現在の世界の在り方そのものに対する強い怒りだ。

「マッキンゼーアンドカンパニーを経て、多くの企業を改革してきた稲田将人氏は、著書の中で『人、性善なれど性怠惰なり』と書いています。私は、人間は8割が欲得で2割は美しい心だと思っているんです。8割の欲得もうまく刺激し、2割の美しい心の部分をうまく巻き込んでいくことが出来たら、必ず成長するビジネス組織になると思います。そして、人間の欲得を刺激することによって、自動的に世の中に善意が蒔かれていく仕組みを作ることが今後のあるべきビジネスの役目なんです」

◆電力業界への怒り

2つめは、電力業界に対する怒りだ。東日本大震災では、福島第一原子力発電所で未曾有の大事故が起こったにも関わらず、電力会社は全く責任を取らず、国に救われた。学生時代からベンチャー企業を起こしてきた同氏は、当然ながら国に助けられた経験などなく、自分の力で必死に働いてきた。

中小企業が倒産しても、誰も助けてくれない。経済全体のためなどという建前のために、弱者は自己責任、強者は救ってもらうというのでは、あまりにアンフェアではないだろうか。加えて、電力会社は子どもでも経営できるような「原価総括方式」を当然という顔で採用しながら、高い料金を徴収している事を同氏は知った。

「競争のない独占企業、かつ私企業が、もっとも腐敗しやすい。国民の監視の目がある官営の方がまだましです。何のために、独占禁止法があるんですか? こういう事を防ぐためですよ。業法で企業が守られて、消費者の法益が蔑ろにされている状態。悔しいから、他で電力を買いたいと思っても、電気は東電から買うしかないという現状。戦う手段が無かったんです。しかし、電力の固定買取制度が生まれ、ZEエナジーの地産地消の小型バイオマス発電というビジネスモデルは、この怒りを同時に解決する事が出来ると確信しました。そして、本年4月に2000kW未満の未利用木材を使った1kWあたりの買取価格が上がり、事業的にも非常に追い風。日本は世界でも有数の木材産出国ですから、まずはその木材を最大限利用して小型の木質バイオマス発電所を作り、日本各地に普及させていこうと考えています」