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私はかつて日本および米国でファンドマネージャーを務め、後に日本の証券会社の経営に携わった経歴もあります。

つまり、自らがプレイヤーとして市場に参加した実践感覚に加え、証券その他の金融商品を販売していた側としての経験もあります。言ってみれば、投資の裏も表も見てきたといったところでしょうか。

そうした経験から私が得た投資の「極意」あるいは「ノウハウ」といったものは、世間一般に信じられている常識や、投資の入門書の記載とはかなり違ったものとなっています。

私は今、金融業界からは引退した身ですので(個人的な投資は続けていますが)、そうしたノウハウを語っても差し支えない立場となりました。そして、私の投資「哲学」は、きっと読者の皆様にも新しい観点を提供できるのではないかと思っております。


「投資で儲ける」とはどういうことか?

さて、では「投資で儲ける」とはどういうことなのでしょうか? 下記の二つの意味が考えられます。

(1)投資家にとっては、相場に自己資金を投入し、売買のテクニックを駆使して、安定的に利益を実現していくこと。

(2)証券会社などのブローカーにとっては、顧客に証券その他の金融商品を販売し、売買手数料を稼ぐこと。

一口に「投資で儲ける」といっても、この二面性があるという事実を、まずは肝に銘じておく必要があります。そして、皆さんが証券会社の窓口や営業マンから受けるアドバイスは明らかに後者に属します。つまり、そのアドバイスは証券会社が儲かるものであり、投資家の皆さんが儲かることには全く繋がるものではないのです!

さらに、投資に関する書籍、雑誌などに掲載されている情報も、ほとんどが後者の視点によるものと考えて良いでしょう。評論家や専門家といった人々は、金融業界でメシを食べている人たちです。金融業界にとってプラスになることを世の中に宣伝普及することが彼らの利益につながるわけですから、意識的にせよ、無意識的にせよ、彼らの発言にはバイアス(言葉が悪ければ、「金融業界に対する配慮」と言い換えても良いですが)が含まれています。

そんなアドバイスに基づいて一般投資家が売買を行っても、安定的に利益をあげることなどは、夢のまた夢だと考えて間違いないでしょう。

さらに言ってしまうと、そもそも専門家に相場を予想する能力などあるのでしょうか?


専門家の成績表

以前、著名評論家やアナリストが過去十年間に推薦した銘柄を実際に買っていたら、どうなっていたかという調査結果をアメリカの新聞で読んだことがあります。調査対象になった専門家は数十人に及んでいたように記憶しております。

結果は、サイコロを振って売買を決めたのと変わらない〈人によってはそれを下回る〉成績だったのです。高度な知識を持っており、高額な原稿料・コンサルティング料を請求する専門家たちの予想が、素人がサイコロを振って決めた予想とまったく同じ確率でしか的中していなかったわけです。

この結果を皆さんはどう思われますか? ショッキングだと思われますか?

この記事を読んだとき、私は全くショックを受けませんでした。「まあ、そうだろうな」というのが正直な感想でした。

同様の調査を日本で行っても、間違いなく似たような結果になるはずです。


相場は結局ランダムウォーク

相場における特定の銘柄の価格が上がるか下がるかは短期的にも長期的にも全くのフィフティ・フィフティであり、どんな専門的知識やデータ分析によっても予測することはできない……これは一般に「ランダムウォーク」と呼ばれる理論です。反論ももちろん存在するのですが、それはかなり微小な確率に関する反論ですので、一般的、全体的にはこの理論は真実であると考えられています。

専門家の予想がサイコロと同じだった、というのも当然ですね。

これから投資を行おうとする人、あるいはすでに行っているが成績が良くない人(まあ、ほとんどの人がそうです)は、必ずこう考えます。「自分はまだまだ勉強がたりないから、もっと経済知識や経済情報に精通しないと儲けられない」と。

しかし、高名で優秀な専門家(あくまで優秀なのは素養です)ですら、サイコロなのです。皆様がこれから一念発起して経済の勉強をされても、儲かるようには絶対になりません。これだけは科学的事実であります。