(写真=PIXTA)
6月から7月にかけての上海株価急落、8月初めの人民元相場の切り下げと、今年の夏は中国の株式、為替市場が騒がしい。いずれも相場が実勢(実体経済)とかけ離れていたということが背景にあるようだが、官製相場さながらの政府による市場介入が目に付いた。
政府による一連の対策がどれだけ奏功したかという課題は残るが、習政権となって、これらの対策には1つの特徴がある。それは、これまで表舞台にあまり立つことのなかった公的年金積立金や保険会社の資金の活用である。
特に、年金積立金の運用については、その規制緩和の必要性が提起され続けていた。今般発表された案では、年金積立金を「だれが」、「どのように」、「なにで」運用するかを大幅に見直しており、その動向が注目されている。
年金積立金の株投資解禁は"怪我の功名"か。
振り返ってみると、政府の株価対策は、6月27日の中国人民銀行の利下げに始まり、7月半ばにかけて矢継ぎ早に発表されている。その中で、6月29日には年金積立金の株式投資への解禁、7月8日には保険会社の株式投資の上限引き上げが発表された。
発表のタイミングや内容を考えると、アナウンスメント効果を期待してのことと考えられるが、株価に対してその効果は限定的であったといえよう。年金積立金の株式投資の解禁を含む運用規制の緩和策は、広く一般から意見(パブリックコメント)を集める案として発表され、実際の発効は年末を目標としている。
また、保険会社の優良株への投資上限引き上げについても、保険会社が金融機関全体の総資産に占める割合が5%程度であることを考慮すると、その効果はかなり限定的であろう。
政府や主務官庁による対策へのなりふりかまわぬ姿が見え隠れするが、習政権は6月に保険会社の資金による国家プロジェクトのインフラ建設等を目的とした投資ファンド「中国保険投資基金」(i)の設立を決定するなど、当初より保険会社の資金の政策活用に積極的であった。
保険会社の資産運用は、2012年以降、規制が段階的に緩和されてきており、今般の株式投資の引き上げによる効果は保険会社側にとっても限定的といえよう。しかし、もう一方の年金積立金の運用規制緩和案の発表は、保険会社のそれとは様相が異なる。
中国における公的年金制度は各地方政府が運営をしており、年金積立金についても地方政府が管理、運用してきた。2014年の各地域における年金積立金の残高を合計すると、3兆5645億元(ii)、日本円では70兆円規模となる。
現時点でこの巨額な積立金の運用は、国債と銀行預金に限定されている(後述の一部の地域の実験的な取組みを除く)。国民の老後の生活を支える資金として、運用は安全性が最優先され、また、各地域に運用専門の担当者の配置が難しいこともあって、その運用は銀行預金や国債などの安定資産に限定されていたのだ。
その結果として、運用利回りは直近5年間も2%程度の低い状態が続いている。中国では、少子高齢化が急速に進行しており、年金制度の持続可能性の課題として、利回り上昇を企図した運用規制の緩和が提起され続けてきた。
これまで、2008年・2011年にも運用規制の緩和が試みられたが、巨額な積立金を「だれ」が「どのように」運用するのかをめぐって、主務官庁、地方政府や関係機関での駆け引きもあり、先送りされてきた経緯がある。
いずれにしても、今回、このような株価対策の一環というタイミングではあったが、運用規制の緩和に向けた案が発表された点は、運用問題改善に向けた一歩として、その意義は大きい。