「なにで」運用するのか。

今般発表された案では、年金積立金の運用・投資先についても規制が大幅に緩和されている。発表のタイミングもあって株式投資への解禁が注目されたが、株式にとどまらず、その範囲は多岐にわたっている(図表2)。

図表2 年金積立金の運用

年金積立金の投資・運用先やその上下限等の内容については、企業年金のそれとほぼ平仄を合わせた形となっている。今般の案では、株式(その他関連投資を含む)への投資が純資産価額の30%を限度に可能とし、その他各種債券、MMF、先物取引等への投資も可能としている。

また、中央企業の傘下企業へのエクイティ投資も20%を限度に可能とし、習政権の新シルクロード構想を側面から支えることになる。ただし、海外への投資については禁止するなど、あくまで安全性を重視する姿勢は変わらない。

また、年金積立金の運用について、国民に対して受託者責任を負っていることを明記した点も大きいといえよう。運営・管理を受託する国の年金管理機関の理事、監事、その従業員は、契約に基づいた運用を行い、受託した資産の利益以外の不正な利益を得てはならないとする「忠実義務」規定の明確化がはかられている。

加えて、職務権限による未公開情報の取得やその漏洩を禁じる「秘密保持義務」も盛り込んでいる。同様に、年金管理機関から運用・保全等の業務を委託される金融機関に対しても、年金管理機関との契約に違反し、その情状が重大な場合は認可を取り消すとし、受託者責任を果たすよう求めている。

2014年の年金積立金の利回りは、全国平均で2.9%であった。前述の広東省は、年金積立金5128億元(約10兆円)のうち、およそ1000億元(約2兆円)を全国社会保障基金理事会に委託運用しており、2014年の利回りは6%を確保している。これに次いで、山東省も年金積立金1933億元から同様に1000億元を拠出、同理事会への委託運用が許可され、本年より運用を開始している。

年金積立金のうち、委託運用としてどれくらい拠出するかは各地方政府に委ねられているが、広東省の前例からか、委託運用額については1000億元規模の拠出が1つの目安となっているようだ。当該案はまだ正式な施行がされていないが、全国社会保障基金理事会には広東省の委託資金の運用実績があるだけに、早くも積立金規模が1000億元を超える残りの7つの地方政府の動向に注目が集まっている。

(i)ファンド規模は3000億元(約6兆円規模)で、今後、国内外の国家プロジェクトを中心としたインフラ建設等、エクイティ投資に向けられる予定となっている。
(ii)都市の就労者を対象とした都市職工基本養老保険基金(3兆1800億元)と都市の非就労者・農村住民を対象とした都市・農村住民基本養老保険基金(3845億元)の積立残高の合計額。
(iii)全国社会保障基金については、ニッセイ基礎研究所基礎研レター拙著「中国保険市場の最新動向(14)「年金積立金」より注目が集まる、「赤字補填金」」(2015年6月16日発行)をご参照ください。
(iv)海外の運用機関は33社となっている。

片山 ゆき
ニッセイ基礎研究所 保険研究部

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