不動産価格の上昇とピーク感

アベノミクス開始以降の2013、14年、円安や株価の上昇に伴い、不動産投資市場でも大幅な取引の拡大と価格上昇が進んだ。

取引価格指数が未整備(*1)で実態は明らかではないが、個別の取引情報や市場関係者のコメント、中古マンションの取引価格指数(*2)(図表-1)などから、機関投資家が主な投資対象とするオフィス等の取引価格も大幅に上昇したものと推察される。また、不動産価格に加え、期待利回りの水準もファンドバブルと言われたリーマンショック以前の2007年に近づいている(図表-2)。

図表-1 中古マンション価格指数(取引価格ベース)

これらの価格上昇は、リーマンショック以前よりも有利な投資環境に支えられている。なかでも、低金利環境の進展は顕著で、10年国債金利とAクラスビル期待利回りのイールドギャップをみると、リーマンショック前の2007年に比べて1%以上も拡大している(図表-3)。借入資金による不動産投資を想定する場合、最近の不動産価格の上昇後も、投資利回りは悪化していないといえる。

図表-3 不動産投資利回りイールドギャップ

また、依然として賃貸市場の回復余地が大きいとの見方もある。不動産価格が大きく上昇した一方、賃料の上昇は遅れており、特に回復の目立つ東京Aクラスビル市場をみても、賃料水準はリーマンショック以前に遠く届いていない(図表-4)。

図表-4 東京 A クラスビル賃料と空室率

2007、08年には、賃料が大幅上昇した後に乱高下していたが、現在の賃料推移は堅調であり、今後もしばらく賃料上昇が続く可能性が高い。こうした中、キャピタルゲイン目当ての短期的な投資も含め、活発な取引と不動産価格の上昇が続いている。ただし、リーマンショック以前の価格水準が意識される中、市場関係者の間ではサイクルのピークを意識する見方も強まってきている。

実際、年初に実施した市場関係者に対する市況アンケート(*3)では、2020年に待望の東京オリンピックが控えているにも拘わらず、2017年までに不動産価格サイクルがピークアウトするとの回答が大半を占めた(図表-5)。

図表-5 不動産価格サイクルのピーク時期予想

上昇した不動産価格や期待利回りの水準に加え、今後は、米国の利上げや、国内の消費税率10%への引き上げなどが控えており、中期的には楽観できない状況といえる。当面は、不動産価格の堅調な推移が見込まれているものの、中長期の不動産投資においては、サイクルのピークを把握することがより重要になってきている。

以下では、サイクルのピークを事前に把握する観点から、有効と考えられる複数の先行的な指標を取り上げ、また、それらの各指標を確認し、不動産価格サイクルの現状を把握する。