株価動向

最も重要な景気先行指標のひとつに、株価動向が挙げられる。株価は将来のポジティブ要素を織り込みながら上昇し、その後、さらなる改善余地が限られ、予想される悪化要素がポジティブ要素を上回った時点で下落に転じる。需給や市場関係者の思惑から、短期的に過剰に動くことも多いが、各投資家が自らの利益追求、損失回避に徹する結果、中長期的には将来の景気動向を反映するといえる。

また、株価は不動産価格に対しても先行するとみられ、その主な理由のひとつは、不動産の賃料収入の安定性である。一般に、企業業績は環境の変化を受けて大きく変動することが多いが、不動産の賃料収入はほぼ安定している。

相場の転換期には、取り巻く環境の変化が企業業績に影響するとの予想から、株価は先行的に動く。一方、安定的な不動産の賃料収入にも影響するとの見方にはすぐには至らないため、不動産価格の動きは株価に遅れる。実際、株式とJ-REITの各指数(TOPIXと東証REIT指数)の構成銘柄についてEPS推移を比較すると、不動産賃料収入の安定性が明確に表れている(図表-6)。

図表-6 TOPIX と東証 REIT 指数構成銘柄の EPS 推移

また、株価(TOPIX)と、仮に不動産価格を代表するものとして中古マンション取引価格の推移を比べると、2005年に株価が大幅上昇して頭打ちした後、2007年に住宅価格が遅れて上昇しており、株価の先行性が表れている(図表-7)。

また、不動産価格については、取引実務面に起因する遅行要因も大きい。不動産取引では、売却物件が市場に出てから、実際の取引実行までに相当の時間を要する。仮に、株価の底打ちと同時に投資家が強気に転じたとしても、以前から出ている物件が売却済みになるまで、価格上昇が認識されにくい。

また、物件の個別性が大きいことから、強気に転じた投資家がすぐに取得するとは限らず、希望に沿う売却物件が現われるまで待つことが多い。このように、株価は不動産価格に先行して動き、先行指標として機能するものと考えられる。現在の株価をみると、TOPIXは反転下落に転じたとは言い切れないものの、一旦、高値圏で調整する動きを見せている(図表-7)。

さらに、最近のJ-REIT価格の動きには特に注意したい。本来、賃料収入の安定性から株価に遅行するはずのJ-REIT価格が、2015年初めから、堅調な株価に先んじて頭打ちする動きとなっていた(図表-7)。

図表-7 株価および J-REIT 価格と中古マンション取引価格

株式については、環境の改善に伴って新たな収益機会の予想も可能になるため、高値にあっても、さらなる株価上昇を正当化できる。一方、不動産については、その安定性のために、従来の範囲を超えた収入の拡大は想定しづらい。そのため、一定水準を超えると、J-REIT価格が株価上昇に追随することは難しくなると考えられる(*4)。

最近、平均分配金利回りが3%となる水準で、J-REIT 価格の上値が重くなっているが、この水準が不動産価格の上限を示唆している可能性がある。このように、J-REIT価格は、株価に比べて先行性は弱いとみられるものの、不動産価格をみる上で非常に重要な指標である。