賃貸オフィス市場

賃貸市場は、基本的に不動産価格に遅行するものの、その中でも比較的先行的な指標を見ることができる。特に、オフィス市場は、賃貸市場の中で最も整備の進んだデータが豊富な市場で、不動産投資の多様化が進むなか、依然として機関投資家の主な投資対象市場となっている。オフィス市場では、指数が未整備で取引価格との比較はできないものの(*5)オフィス稼働率の先行性が際立つ(図表-11)。

一般に、需給が改善してオフィス稼働率が高まるにつれ、強気に転じたビルオーナーが募集賃料を引き上げ、一方、需給が緩んで稼働率が低下した際は、テナント確保のために募集賃料を引き下げる。取引価格に対する先行性は確認できないものの、賃貸市場で最もサイクル周期の早いデータとして、オフィス稼働率の重要性は高い。現在、オフィス稼働率は、大幅上昇した後にやや上昇ペースを鈍化させている。今後、頭打ちとなる可能性には注意が必要である。

その他では、新築ビル募集賃料(*6)やAクラスビル成約賃料が、平均オフィス募集賃料や鑑定評価額に先行している(図表-11)。特に、新築ビル募集賃料は、2008年初や14年上期に賃料下落に転じたタイミングの早さから、Aクラスビル成約賃料よりも先行性が強いとみられる。

新築ビルをめぐっては、賃貸オフィス需給の逼迫が見込まれる際、竣工以前に入居予約が進む。そのため、残りの限られた空室スペースでは高い募集賃料が設定される。一方、需給見通しに余裕がありテナント企業が急がない場合、新築ビルは大きな空室を抱えて竣工し、テナント確保に向けて募集賃料を引き下げる。このように、新築ビルでは、今後の需給見通しが募集賃料の変化として表れ易い。

加えて、賃料の上昇期には、収益見通しが楽観的になるにつれて、オフィスビルの開発が都心の好立地に止まらず、周辺部にまで広がる傾向がある。そのため、サイクルのピークに竣工する物件は、それ以前の竣工物件に比べて立地条件が劣り、新築ビル募集賃料の低下を招くとも考えられる。

新築ビル募集賃料やAクラスビル成約賃料も、やはりオフィス取引価格の先行指標といえるかは明らかではない。ただし、新築ビル募集賃料が、既に2014年から下落傾向となっている点には、十分に注意しておきたい(図表-11)。

図表-11 東京賃貸オフィス市場