海外市場動向

また、海外市場の動向を参考にすることも有効と考えられる。近年、不動産投資市場のグローバル化の進展に伴い、リーマンショック以降、低成長市場として海外投資家から敬遠されていた日本市場でも、海外資金の流入が活発化している(*7)(図表-12)。

図表-12 海外資金による国内不動産取得金額

海外投資家の多くは、世界の他の主要都市と比較しながら、日本国内の不動産に投資している。そのため、日本国内の不動産価格サイクルは、海外投資家の増加に伴い、比較対象である海外市場に少なからず影響を受けるようになっている。

例えば、最近、東京の高級マンションの価格上昇が著しいが、香港やシンガポールのコンドミニアムと比較した割安感から(図表-13)、アジアの富裕層が積極的に取得した影響が小さくない。さらに、オフィス等、機関投資家が主に投資対象とする不動産については、国際分散投資の観点から、幅広く世界の各主要都市が比較の対象となっている。

図表-13 世界主要都市の高級マンション相対価格(東京=100)

世界の中でも、特にロンドンの不動産投資市場は、海外投資家に開かれた活発な市場である。年金基金などの機関投資家から個人の富裕層に至るまで、世界各国から幅広い層の投資家が集まり、海外投資家の取引が投資市場の大半を占めている。

ロンドン市場は、世界で最も透明性が高い市場といわれており、海外投資家も賃貸および取引の詳細な市場情報を入手できる。そのため、取引件数が非常に多く、取引ベースのオフィス価格指数が整備されている。

また、ロンドン市場については、世界のベンチマーク市場としてサイクル周期が早いことも指摘されている。実際、セントラルロンドンのオフィス価格指数と米国主要6都市CBDのオフィス価格指数を比べると、既に2007年上期にロンドン市場が下落局面に入っており、米国市場よりもサイクル周期が早いことが確認できる(図表-14)。

その他、香港の不動産投資市場も世界からの注目度が高く、オフィス賃料と取引価格はともに世界最高水準にある(図表-15)。アジアのベンチマーク市場と認識されており、シンガポールや東京などの不動産投資に際し、香港との相対評価によって判断する海外投資家は多い。

特に、香港のコンドミニアムや区分所有オフィスでは、個人投資家や中小企業による投機的な短期売買も多く、流動性の高い投資市場が形成されている。そのため、ロンドンと並んで、香港市場は世界で最もサイクル周期の早い、あるいは短い市場と認識されている。

実際、2009年上期の回復局面をみると、香港セントラルのグレードAオフィス価格は、セントラルロンドンのオフィス価格よりも早期の回復を示していた(図表-14)。

このように、世界のベンチマーク市場にはある程度の先行性があり、さらに、オフィスの取引価格指数が入手可能なことから、日本市場でも参考にすることができる。

現在、セントラルロンドンのオフィス価格には、特に懸念点は表れておらず、堅調な価格上昇が続いている(図表-14)。一方、香港セントラルのグレードAオフィス価格をみると、2013年以降は頭打ちの推移となっている(図表-14)。最近、中国本土株式市場の乱高下が話題を集めているが、香港の不動産投資市場にも十分に注意する必要があるだろう。

図表-14 世界主要都市 CBD オフィス取引価格指数