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(写真=PIXTA)


ギリシャ問題の感染力低下の背景にあるユーロ制度の改革

6月下旬から7月上旬まで、ギリシャ支援問題が迷走したものの、ユーロ圏の銀行市場や国債市場、経済活動に大きな影響は見られなかった。

ギリシャ問題の感染力低下の最大の要因は主な債権者が域内の銀行から公的機関に移っていることにある。財政危機の飛び火に対しては、各国の財政赤字の削減が進展したこともあるが、今年3月から欧州中央銀行(ECB)がデフレ・リスク回避のために行なっている国債等の買い入れによる量的緩和がバッファーとして果たした役割は大きかったように思う。

世界金融危機と、それに続くユーロ圏内の債務危機対応のプロセスで、ユーロ圏の制度の欠陥を修復する作業が進展したことも、一定の効果を果たした。ギリシャ危機が最初に表面化した段階には存在しなかった参加国が資金繰り困難に陥った場合に支援を行なう仕組みは、欧州安定メカニズム(ESM)として常設化されている。

あいまいだったECBの役割も、5000億ユーロのESMの支援能力を補う形で金額に上限を設けずに国債を買い入れる枠組み・OMTを備えることで明確になった。銀行監督と破綻処理制度を一元化する銀行同盟の始動も、ユーロ圏の制度の強化、金融システムの安定維持に一定の役割を果たした。

銀行同盟は、財政危機の域内伝播、銀行と政府の信用悪化が深刻な問題となっていた12年6月のEU首脳会議(欧州理事会)の合意に基づき動き出し、12年12月のEU首脳会議で議論された「真の経済通貨同盟に向けて(TowardaGenuineEconomicandMonetaryUnion)」(以下、ファンロンパイ報告書)にユーロ圏の制度強化、つまり統合を深めるための4本の柱の1つとして盛り込まれた(図表1)。

図表1 12 年 12 月ファンロンパイEU大統領報告の工程表

銀行同盟については、2014年春の欧州議会選挙、秋の欧州機関のトップ交替までに目処をつけるべき課題として、集中的な法案制定作業が進み、14年11月にECBへの銀行監督の一元化(SSM)が実現した。

これに先立ち、従来よりも厳格な共通に基づく圏内の銀行の資産査定とストレス・テストも実施された(i)。単一破綻処理委員会(SRB)と単一破綻処理基金(SRF)からなる単一破綻処理制度(SRM)に関する法律も15年1月から発効、16年1月には本格的に稼動し始める。

ファンロンパイ報告書は、主に2014年までの期間を視野に入れていたが、銀行同盟以外の財政同盟、経済同盟、政治同盟については特段の動きはないまま終わった。財政同盟では「約束に基づく金融インセンティブ」という限定的且つ条件付きのユーロ圏の共通財源を示唆する課題も掲げられたが、具体的な取り組みは前進しなかった。