ユーロ制度改革の新たな工程表-ユンケル報告書

6月22日に公表された「経済通貨同盟(EMU)の完成(CompletingEurope'sEconomicandMonetaryUnion)」は、ファンロンパイ報告書を引き継ぎ、ユーロ圏の制度強化の新たな工程表を示した報告書だ。

欧州委員会のユンケル委員長が、欧州理事会(EU首脳会議)のトゥスク常任議長(EU大統領、ユーロ圏首脳会議議長)、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)のダイセルブルーム議長、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁、欧州議会という他の4つの欧州機関のトップと緊密に連携して作業したとされる(以下、ユンケル報告書)。

ユンケル報告書もファンロンパイ報告書と同じく期間を区切って課題を掲げたが、EMUの完成という最終段階に遅くとも2025年までに到達するという期限を設定した点が特徴だ。

◆第1段階

第1段階は15年7月1日から17年6月30日までの向こう2年間で、現存する機関や現在の条約の枠内で制度の強化を目指す。経済政策の調和を目指す経済同盟では、競争力の向上と構造的な収斂を促すため、各国が競争力当局を創設し、各国当局とEUの欧州委員会が「競争力当局ネットワーク」を形成し、年次ベースでの政策調整を行なう。

金融同盟は、銀行同盟とともに、EU域内の資本の国境を越えた移動に対する障壁を取り払い、単一資本市場を構築する資本市場同盟を含むもので、金融統合を高めることを目指す。財政同盟では、EU法に従って、財政政策のEUの財政ルールへの適合性を判断するために各国が創設した財政諮問委員会を補完する役割を果たす「欧州財政資本委員会」の創設を掲げている。

債務危機の拡大局面では、財政面では、ESMの創設に向けた取り組みと並行する形でルールと監視の強化が進められてきた。第1段階の取り組みは、これまでの取り組みの延長上にある。

図表2 ユンケル報告書で示された経済通貨同盟(EMU)完成の工程表

◆第2段階

2017年春、第1段階の取り組みについて白書をまとめて評価した上で第2段階に進む。経済通貨同盟(EMU)の完成を目指す段階だ。経済政策について、法的な拘束力を持つ共通の目標を設定し収斂を目指す。

ユーロ圏内の収斂が達成したことを前提として、大きなマクロ経済的なショックを吸収するために利用可能なユーロ圏共通の財源(マクロ経済安定化機能)を創設、ユーロ圏財務省も創設する。注意しなければいけない点は、EMUの完成と言っても、ユーロ圏の不完全性を表現する際に用いられる「通貨は1つ、財政はばらばら」の解消を目指す訳ではないことだ。

ユーロ財務省は、統合を深めた結果、共通の意思決定を行なうことが望ましくなった領域に限り役割を果たす。参加国の財政の完全な統合を目指すのではなく、EMUが完成した段階でも、税や歳出の配分についての権限は各国の議会が有すると明記されている。ユーロ圏共通国債の発行も想定されていない。