分析結果
◆資金調達行動
一般に、投資家が、企業には魅力的な投資機会があると考えない限り、増資や転換社債の発行は、株価を下げる傾向がある。このため、外部資金調達の必要性に迫られた経営者は融資や社債を優先し、株式や転換社債による資金調達を避ける傾向がある(ペッキングオーダー理論)。
ならば、企業が直面する魅力的な投資機会に対する理解が深い株主を多く有する企業は、そうでない企業に比べ増資や転換社債の発行に対するハードルが低くなるだろう。つまり、持ち合い関係にある会社が一般投資家に比べて理解が深く、持合比率の高い企業は増資や転換社債の発行割合が高い可能性がある。
具体的には、2014年4月~12月における増資及び転換社債の発行決定事例を用いて、持合比率が20%以上の企業とそれ以外の企業との間の、上記決定を実施した企業の割合の差を調べた。持合比率が相対的に高い企業は、そうでない企業に比べ、増資を実施した企業および転換社債を発行した企業の割合が高い(図表-2)。
なお、持合比率の水準により増資の転換社債の発行も行っていない企業の割合(図表-2の紫太枠の比率)は統計的有意(*2)に異なることも確認できた。これは、持合比率が高い企業は、そうでない企業に比べ、増資や転換社債の発行による資金調達のハードルが低い可能性を示している。
もちろん、持合比率の高い企業にとって増資や転換社債の発行による資金調達のハードルが相対的に低いのではなく、持合比率の高い企業は資金調達ニーズが高い結果、増資や転換社債の発行に踏み切った企業の割合が高い可能性も考えられる。
しかし、公募社債の発行事例を用いて同様の分析を行った結果、持合比率の高い企業とそうでない企業との間に統計的有意な差はなかった。むしろ、持合比率の高い企業の方が、公募社債を発行した企業の割合が低かった。
また、持合比率の高い企業にとって増資や転換社債の発行による資金調達のハードルが相対的に低いのではなく、持合比率の高い企業は、業績の低迷などを理由に融資や社債などによる資金調達が困難な企業の割合が高い可能性も考えられる。ただし、持合比率と業績との間にも統計的有意な差は無い(詳細は次回報告)。
やはり、持合比率の高い企業における増資や転換社債の発行による資金調達のハードルは、相対的に低そうだ。つまり、株式持ち合いの解消が進むと、増資や転換社債の発行による資金調達のハードルが高くなる企業が増加し、その結果、株式や転換社債の発行による資金調達が減る可能性がある。
ならば、従来型の優先債務による資金調達が困難な企業を中心に、資本性のある借入金の利用が更に進むかもしれない。