◆事業再編

めまぐるしく企業を取り巻く環境が変化する中、企業が勝ち残っていくためには企業価値向上に向けた努力が必要不可欠である。その手段として、M&Aを通じた規模の拡大による効率化、新しい事業への進出、非効率な事業の売却などがある。そして、M&Aの一部は株主総会の特別決議が必要である。

持合比率が高さは、積極的な事業再編の後押しとなるのか、はたまた、事業再編を通じた企業価値向上意欲を削ぐのだろうか。そこで、持合比率によってM&Aに関与した企業の割合に差があるかを確認した。

具体的には、2014年4月~12月におけるM&A公表事例(*3)を用いて、持合比率が20%以上の企業とそれ以外の企業との間の、M&Aに関与した企業の割合の差を調べた。ただし、M&Aのうち資本参加と出資拡大は分析対象から外した。

当レポートの最終的な目的は、政策保有株式の削減が更に進むことがもたらす企業行動の変化の予想にある。このため、政策保有株式の削減とは対極にある資本参加と出資拡大を対象外とした。分析の結果、持合比率が相対的に高い企業は、そうでない企業に比べ、M&Aに関与した企業の割合が低いことがわかった(図表-3)。

【図表-3】持合比率の水準別 M&A 関与割合

しかし、この差に統計的有意な差は無いため、持合株式が高いと、事業再編を通じた企業価値向上意欲を削ぐとは言えない。つまり、株式持ち合いの解消が進んでも、事業再編の頻度や速度が増すことは期待できない。


次回に続く

今回は、持合比率が資金調達や事業再編に影響を与える影響を確認した。次回は企業業績と利益の還元方法の他、株主層(個人株主)の拡大に対す企業の取り組みについて報告する。

(*1)持合比率算出方法に関する詳細は基礎研レポート『劇的な環境変化にさらされる「株式持ち合い」制度~企業行動の解明に一助を』参照
(*2)今回の分析における統計的有意性の判断は、有意水準5%(片側)を基準に行う。
(*3)マール2015年特大号(244号)の「2014年M&A全データ一挙掲載」を参考に分析

高岡 和佳子
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員

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