セントラル・グループ :国境地域の出店やアセアン市場への進出に加え、欧米一流デパートの買収を加速

中国(海南島)出身のチラティワット(Chirathiwat)家(*16)が支配する有力華人系企業グループでアセアン最大の流通企業グループ。その発祥は1925年にバンコクに設立した輸入雑貨店である。

その後バンコクの中華街にタイ初のデパートをオープンし、80年代から多くの大型店を開店(アセアンで最大級であるバンコク中心部の「セントラル・ワールド」が象徴的存在)。デパート(セントラル、ロビンソン等)と併せグループの中核事業である小売分野では、スーパー(トップス)やコンビニ(サイアム・ファミリーマート)、ディスカウントストア(ビッグC)、家電量販店(パワーバイ)を展開している。

また、外食事業(大戸屋、吉野家、ミスタードーナツ、ケンタッキーフライドチキンなど)、不動産、ホテル事業なども主な事業領域にしている。外食・コンビニ等日本企業との提携も数多い(*17)。

上場企業は、ショッピングモールなど不動産開発を担うセントラル・パタナが唯一の会社である。グループの経営は、創業者から第3世代に当たるトッス・チラティワット氏(CEO)をリーダーに、創業家一族の多くが幹部となっている(一族のメンバー約150名がグループ内に勤務しているとの報道がある)。

最近の動きとしては、国内外の富裕層をターゲットにする大型高級ショッピングモール「セントラル・エンバシー」(バンコク)の開店、およびCLM諸国に近い国境付近にデパートの出店を増やしていることである。

後者については、CLM諸国への直接進出には、未だ様々なリスクがあると認識し、投資リスクを回避しつつ、カンボジア・ラオス・ミャンマーから買い出しに来る顧客を取り込む目的で、国境付近へ進出しているとのことである。これは、小売業における「タイプラスワン」戦略(*18)であり、かつ「準国際化展開」であるとも考えられている。

2014年のグループの売上高は2,495億バーツ(前年比7%増)で、この金額は、直近10年間で3.2倍となっている。現時点の海外売上比率は約15%であり、10年後に50%に増やすことを目指している。同グループの国際展開については、現時点で大きく2つの柱があると考えられる(*19)。

(1)アセアン

ベトナムとインドネシアにデパート(2014年ハノイ・2015年ホーチミン:傘下のロビンソンデパート、2014年ジャカルタ:セントラルデパート)を開店し、2014年ベトナムの家電販売大手企業であるグエンキム社に49%出資した。マレーシアでは、2014年に500店以上を有する大手衣料販売会社HCHの買収に加えて、2016年オープン予定でショッピングモールの建設を行っている。

(2)欧州事業

2011年にイタリアのリナシェンテ(11店)、2013年にデンマークのイルム(2013年)、2015年にドイツの3店(ベルリン・カーデーベー、ミュンヘン・オーバーポリンガー、ハンブルグ・アルスターハウス)と欧州の老舗デパートを次々に買収した。

今や欧州のデパート事業では、フランスのギャラリー・ラファイエット、英国のセルフレッジに次ぐ第3位の規模(年間売上高12億ユーロ)となっており、イタリアでの店舗増の他、今後も英国とフランスでの買収を考えていると報じられている。欧州事業の推進には、それ自体の目的に加え、欧州の高級ブランドのタイやアセアンへの導入拠点とし、グループ全体としてシナジーを得る利点がある。

現在、セントラルグループの国際デパート事業推進の中心人物となっているヴィトリオ・ラディス氏(リナシェンテ副会長(セントラルによる買収前は同社のCEO)は、専門経営者として、多数の欧州ブランドのアセアンへの導入などに手腕を発揮している。