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(写真=PIXTA)


はじめに(前回の要約)

政策保有株式を取り巻く環境変化を背景に、政策保有株式の更なる削減が予想される。当レポートでは、政策保有株式の減少が企業の行動にもたらす変化を予想する。

前回は、資金調達行動と事業再編に関する分析結果を報告し、政策保有株式の削減に伴い、株式や転換社債の発行による資金調達が減る可能性を指摘する一方、事業再編の頻度や速度にはさほど影響がなさそうであると報告した。

今回は企業業績と利益の還元方法、並びに株主層(個人株主)の拡大に対する企業の取り組みに着目する。


分析結果(続き)

◆企業業績

一般に、外部資金調達の必要性に迫られた経営者は融資、社債、転換社債、株式の順に優先する。前回、持合比率が相対的に高い企業は、増資や転換社債を発行する割合が高いことを示した。しかし、持合比率が高い企業は業績の低迷などを理由に融資や社債による資金調達が困難な企業が多く、その結果、増資や転換社債を発行する企業の割合が高いだけかもしれない。

そこで、持合比率の水準と投資の効率性との関係を確認した。企業業績の尺度として、株主資本利益率(ROE)ではなく、総資産利益率(ROA)と総資産営業利益率を採用した。これは、資本構成の差の影響を極力排除するためである。

持合比率が相対的に高い企業は、そうでない企業に比べ、総資産利益率、総資産営業利益率共に低い傾向があるが(図表-1)、統計的有意な差ではない。

【図表-1】持合比率の水準別企業業績(平均)

このため、持合比率が高い企業の増資や転換社債を発行する割合の高さを業績低迷で説明することはできない。また、株式持ち合いの解消が進むことで、総資産利益率や総資産営業利益率が上昇する可能性はあるが、あまり期待しないほうがいい。

◆利益の還元

次は、株主に対する利益の還元に着目する。最も代表的な利益還元方法は配当(インカム)であるが、自社株買いも利益還元策とみなされる。自社株買いにより株価の上昇(キャピタル)が期待できるからである。また、仮に市場が完全に効率的であれば、利益還元策と企業の株式の価値は無関係であることが示されている。

しかし、市場が完全に効率的であるためには、取引コスト、税金や規制がなく、すべての市場参加者間に情報格差はないなど、様々な条件を満たす必要がある。実際の市場は決して完全に効率的ではない。例えば、配当に対し課される税率が高い投資家層が株主の大多数を占めるなら、企業は自社株買いを選択するべきだ。

つまり、『配当収益等の益金不算入制度』の存在が、利益還元方法の選択に影響を与えている可能性がある。そこで、持合比率によって利益還元方法に差があるかを確認した。

まず、2014 年4月~12 月における自社株買いの決定・公表事例を用いて、持合比率の水準別に自社株買い実施割合を調べた。結果、持合比率が相対的に高い企業は、そうでない企業に比べ、自社株買いを実施した企業の割合が低い傾向があり(図表-2)、その差は統計的有意に異なることも確認できた。

【図表-2】持合比率の水準別自社株買い実施割合と平均配当性向

しかし、持合比率の水準別に 2014 年度決算における配当性向(平均)を調べたところ、持合比率が高いほど配当性向はやや高いが、統計的有意な差は確認できなかった(*1)。株式持ち合いの解消が進むと、自社株買いを通じた利益還元が増えるかもしれないが、それにより配当が姿を消すというわけではない。