財務省
(写真=PIXTA)

財務省が与党税制協議会に対し消費税率を10%に引き上げる際の負担緩和策を示した。全品目に10%の税率を課した上で、酒類を除く飲食料品(外食サービスを含む)については、税率2%相当額を後日、国民に還付する仕組みを提示したようだ。

財務官僚が「日本型軽減税率案」と称している緩和策のポイントは次の3点だ。

「商品の購入日・金額等の還付データをマイナンバー・カードに登録」「消費者からデータ提供を受けた『還付ポイント蓄積センター』が還付データを管理」「税務署が1人4000円を上限として預金口座に還付金を振込み」。

これは以下の致命的な問題点を抱えており、実現可能性のある施策とは到底思えない。


問題点1:全国民へののマイナンバー・カードの発行は非現実的

消費税の還付を行うためには、理論上、全国民分のマイナンバー・カードを発行・運用できる体制が必要となる。2017年4月1日の消費税率10%適用まで1年半程度しかない中で、1億2000万枚以上のカード、リーダー(読み取り端末)、データ登録システムなどを準備し、稼働テストとそれに基づくシステム改修を行うことは、ほぼ不可能だと思われる。

クレジットカード、キャッシュカード、ポイントカードなど民間でも多数のカードを発行・利用しているが、こうした活動をすべて停止させ消費税還付プロジェクトにシステム・人員を投入し、1年半ほどで対応するのは現実的ではない。


問題点2:「還付ポイント蓄積センター」の設立は行政改革に逆行

還付データの管理は、新設の「還付ポイント蓄積センター」が行うと報じられているが、財政再建が喫緊の課題の中で、新たな公的機関を設立する案は、多くの国民の理解を得られないだろう。財務省・国税庁の余剰人員・天下り対策の組織とみられても仕方がない。

またインターネットを使った還付申告を想定しているようだが、高齢者を中心にパソコンやスマートフォンを使いこなせない人も相当数いることから窓口対応も必要となり、さらに費用がかさむ。


問題点3:還付金4000円では不十分

1人当たり4000円の還付上限額を設けると報道されているが、その根拠が不明である。

還付する消費税2%相当分が4000円になるということは、還付金の計算対象となる飲食料品の購入総額は税込み22万円ということである(4000円÷0.02×1.1=22万円)。

2014年度の一般労働者の平均賃金299万円(厚生労働省)、平均エンゲル係数24.3%(総務省)をもとに計算すると、1人当たりの飲食関係支出は約72万円。大ざっぱに言えば、飲食料品購入総額の30%程度しか還付対象にならない計算となる。これでは与党の公約違反と言わざるを得ないだろう。