難民受け入れのメリット・デメリット

難民の受け入れは本来、人権擁護や人道的弱者救済の精神に根差し、「難民条約」のもとで国際的義務とさえなっているもの。その意味では損得を論ずるべきではない。しかしながら、欧州を目指すシリア難民の規模の大きさを見ると、欧州各国がその影響を真剣に見極めようとするのも当然のことだろう。

その考え方を一般化することは困難だが、ここでは受け入れに積極的なドイツの視点から見た主なメリット・デメリットを簡単に整理してみよう。

メリットには道義的責任を果たすことを通じて、国家としての信用や発言力を高め得るという政治的効果がある。そしてドイツによる受け入れは、難民が故国から目的地ドイツへの長い旅路の中で通過する幾つかの国々(トルコ、セルビア、ハンガリーなど)にとっても大きな救いとなることも見逃してはならない。また人口減少に歯止めをかけ、経済成長、年金財源の確保を目指すという経済的効果もあるだろう。

デメリットは言うまでもなく、文化的摩擦・衝突、テロを含む犯罪の増加への懸念だ。また、受入れた難民の自立的生活が可能になるまでの様々な財政的支援コストが負担となる。さらに、一般の移民(外国人労働力)に反発する声がこれまでにも増して大きな政治的うねりとなりかねないという国内政治上の懸念もある。

日本には「ボートピープル」を受け入れた過去

これらがそのまま日本にも当てはまるかと言えば、答えはもちろん「ノー」だ。難民問題に関する限り、日本とドイツ(あるいは欧州全域)の間には埋めがたい成熟度ギャップがあると言って過言ではないだろう。

まず歴史の違いがある。難民問題の端緒は第1次世界大戦後のロシア難民と言われるが、その後も第2次大戦や1990年代のユーゴ紛争など欧州各国はこの100年間、難民を生み出す側にも受け入れる側にも立ち、多くの悲劇的歴史を経験してきた。

日本が難民と無縁と言うわけではない。難民条約に未加盟だった1970年代には「ボートピープル」と呼ばれたインドシナ難民支援を独自の立場で開始しその後通算1万人以上を受け入れた。しかし数の上でも年数的にも欧州とは比べるまでもない規模だ。

その結果でもあるが、国民の意識の違いも大きい。極東の小さな島国には「難民」など関係ないと思っている日本人が大多数だろう。果たしてどれくらいの日本人が「ボートピープル」を覚えているだろうか。日本がUNCHRにとって世界第2位の資金拠出国であること、10年間UNCHRのリーダーを務めた緒方貞子氏の英雄的ともいえる活躍ぶりにもかかわらず国際的には「日本は難民に冷たい国だ」と言われてきた。この事実を知る人も少ないだろう。

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