公開価格の評価

公開価格の分析に入ります。4月14日付で決定された公開価格は1,600円。吸収資金は445.2億円(今期予想連結PER:20.0倍)、時価総額は5,474億円という結果になりました。9日に発表された仮条件が1,600~1,800円であったということで、その下限でちょうど決定した値になっています。結論から言うと、この下限決定には特にサプライズ要素はありません。国内外の株数比率が変更され、国内比率が引き揚げられたことからも海外投資家の購買意欲が弱かったことが見て取れ、日経相場の大幅安傾向とも相まって、それほどの盛り上がり要素が無いからです。実際に、海外ファンド筋からは「出しても1500円」「他の鉄道株の方が割安なため西武を買う理由が見当たらない」などの声が聞かれているようです。サーベラスとの一連の騒動が広く知れ渡ったことで、値上がり目的の公開株取得者は個人でも少数とみられ、2000円以上とされたサーベラスの希望売却価格から離れたからといってあまり期待を抱きにくいというのが正直なところです。
一方で、引受団では優待制度の恩恵が受けられる西武線沿線の個人株主に重点的に割り当てを行う方向のため、基本的に現物の売りは絞られることにはなりそうです。今後は昨年のTOB価格を上回ったことでの既存株主による空売りなども警戒しておきたいところです。いずれにせよ、初値売買代金は新興市場並みの水準が見込まれ、厳しい展開になるものとみられます。
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上場後の展望

このような買い手不在の厳しい展開の中でもあえて強気材料を見出すとすれば、 ①一等地保有が多いという不動産業の系譜、②知名度の高さ、③訪日観光客増加、といったところでしょうか。①については特に、大手私鉄を含む不動産関連事業をそのまま不動産銘柄として見てしまえばまだ魅力的と言える余地があるためです。とは言え、日銀の追加緩和への期待が薄れた最近の相場において、しかも首都圏私鉄というドメスティックな産業に対し海外ではどの程度の需要があるかは疑問です。
②については、西武ライオンズのPR効果もあって個人投資家の間では比較的知名度が高く、特に西武線沿線の住民が株主優待の恩恵を求めて買い手の中心になってくれるとみられます。ただしアベノミクス失速後の相場の不安定感から買いを躊躇する人も多く、確実なポジティブ材料とは言い難いのも確かです。
③については、東京オリンピックに向けた訪日観光客増加やMICE(国際会議や見本市など)の開催に伴う利用増でホテルや鉄道の売り上げが伸び、副都心線効果や秩父開発とも相まって15年3月期は業績にプラスの影響が現れると予想されているのが理由です。


いかがでしたでしょうか?日本株全体への投資意欲も減退している最近の市場トレンドの中で、IPOマーケットは二極化の傾向が新年度に入ってもますます強まっています。中でも大型・成熟の案件が不人気となっている中で、割安感に乏しい現状の西武の価格がどのように市場に評価されていくのか、今後も注目していきたいものです。

By ZUU Online 編集部(H.O) Photo:The prince park tower tokyo