日本郵政グループ3社の同時上場は投資家の間で大きな注目を集めていることは事実だ。テレビCMや新聞広告、さらに証券会社でも熱心なセールスが行われている。投資家のなかにはかつてNTTの上場で利益を手にした時の成功体験を思い起こす人もいるようだ。

国有企業の民営化の成功例を英国に求めるエコノミストも多い。企業の生産性が低下し英国病と皮肉られ長期停滞していた経済を建て直すきっかけとなったのが、当時のサッチャー首相が取り組んだ国有企業の民営化だ。

ブリティッシュ・テレコム(BT)やブリティッシュ・エアウェイズ(BA)といった国有企業が次々と民営化された。英国病にむしばまれた企業の生産性の向上を促し、株式を保有することとなった個人の新たな中間層がサッチャー政権を支えたことを例に挙げ、このIPOが日本経済の脱却と新たな中間層を育てる試金石となるだろうという見方もある。

しかし、今回のIPOを英国の国有企業の民営化になぞらえることには無理がある。そもそも今度のIPOの動機が必ずしも前向きでは無いのだ。上場によって得られた資金は復興財源の穴埋めに使われることになるのだ。


金融2社の収益にも陰り

16年3月期は日本郵政とゆうちょ銀は連結純利益が減る見通しだ。かんぽ生命も3%の増益にとどまる見込みで、グループ収益のほとんどを占める金融2社の収益には陰りが見えている。

また、全国一律の郵便のユニバーサルサービスを維持するために、ゆうちょ銀行とかんぽ生命は、年1兆円近い手数料を郵便局に払っている。その負担は重く、郵便、銀行・保険窓口の3事業で年間2631億円にのぼる赤字を、グループ全体で穴埋めしているという厳しい現実がある。

IPOのタイミングに合わせるかのように与党・自民党の郵政事業に関する特命委員会では郵便貯金の預入限度額を、現行の1000万円から3000万円に引き上げる提言をまとめた。

かんぽ生命保険の契約限度額も現在の最大1300万円から2000万円に引き上げられることが予想される。当然ながら民間金融機関などからは民業圧迫との批判の声があがっているが、民間と限られたパイを取り合うビジネスモデルしか描けないのだ。

話題の郵政3社のIPOは話題性が高く、個人投資家の多くが強い関心を持っている。購入を検討している投資家も多い。

しかし、冷静に考えればこれだけ収益性の低い企業の株を買うことが本当に正しい投資行動かはなはだ疑問だ。先の例からも郵便貯金やかんぽ生命保険の限度額を引き上げ、民業を圧迫するという将来ビジョンしか描けない企業に成長性が期待できるだろうか。(ZUU online 編集部)

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