ベンチマークを常に上回る運用は可能なのか?

−−ベンチマークとの感応度、つまり連動性を示すリスク指標として「ベータ」があります。貴社の運用戦略とは、ベータ値をコントロールすることで、アルファを獲得すると理解して良いのでしょうか。

アカディアンの株式運用には、マルチファクターモデルによる予測リターンの付加価値に注目した戦略と、これに加えベータ・コントロールにも注目した戦略、更にこれらをヘッジ・ファンドに仕上げた戦略に大別されます。ここでは、二番目の戦略につき申し上げますが、狙いはベータ値をコントロールする事でベンチマークよりも十分に小さなボラティリティ(長期間平均で3分の2程度を想定)で、同等以上のリスク調整後のリターンを獲得する(高いシャープ・レシオを得る)ことです。絶対ベースでのポートフォリオのリスク低減を目指す事でベンチマークを上回るリターンも得られる事が過去の統計からは実証されています。付加価値の源泉には、銘柄選択モデルによる個別銘柄のリターン予測のほかに、リスクのミスプライシング(低ボラティリティ・アノマリー)活用が大きな割合を占めています。また、推定取引コストを考慮した銘柄選択や回転率制約なども、付加価値の積み上げに寄与しています。

市場には、ある種の癖、偏りがあって、そのために企業業績等のファンダメンタルズでは説明できないような場面が度々見られます。弊社のマネージド・ボラティリティ戦略がアルファの源泉とするアノマリーは、一般的に言われるようなアービトラージ(裁定取引)で簡単に消滅するものではなく、ずっと残り続け、何度も繰り返されます。つまり、ここで言う、癖、偏りとは、偶然ではなく、何らかの理由により、市場が有する構造的なバイアスがかかっているために必然的に発生するもので、再現性の高いアルファの源泉です。アカディアンでは、世界の様々な市場インデックスで長い期間の観測データに基づき、実証研究を行って結論付けています。詳しくは 証券アナリスト協会の2/18講演録 をご覧下さい。

具体例をあげましょう。世界の機関投資家は、ベンチマークに連動する運用を採用するところが圧倒的に多いのですが、彼らはベンチマークとの乖離を防ぐために、どうしても一定の銘柄を組み込まなければならない宿命にあります。その銘柄のなかにはベータ値の割には大したリターン(収益)が期待できないものが多く含まれます。一方で、ベンチマーク運用というルールに縛られているために、彼ら機関投資家が買えない銘柄も存在します。ベンチマークせざる得ない機関投資家は、いくら魅力的であっても低ボラティリティの銘柄のアクティブ・ウエイトを高めることは高リスクであると捉えてしまいます。すなわち、銘柄のなかには、ベータ値が低い割には大きなリターンが期待できるものが意外と多い。弊社の低ボラティリティ戦略では、そうしたベータ値が低い割に大きなリターンが期待できる銘柄を組み込むことで、シャープ比の最大化を目指しています。

パッシブ運用者が買えない銘柄に着目

−−余談ですが、ピーター・リンチの名言に、機関投資家が見向きもしないような「面白みのない、馬鹿げている社名」の銘柄を買え、というのがありますが、その言葉に通ずるものを感じました。

弊社(米ボストン本社)スタッフには現役のハーバードの教授含めアカデミックな経歴を持つ者が多く、2011年と2014年に低ボラティリティ戦略に関する論文でCFA協会のグラハム・アンド・ドッド・スクロール・アワードを受賞しております。それはさておき、ベンチマーク運用に携わる運用プロフェッショナルだけでなく、個人投資家もベータ値の高い銘柄を選好する傾向がありますね。それは日本だけではなく、北米や欧州、アジアなど全世界で共通して見られる現象です。アップサイドが期待できる銘柄を選好すれば、どうしてもベータ値は高くなりますから。だからこそ、市場参加者が見向きもしないような銘柄のなかには、ベータ値の低い割に、高いリターンを期待できるものが多い。

これは、投資心理学の観点から見ると、①自信過剰、②代表性、③宝くじ嗜好、という三要素があり、特に個人投資家が、例えば動きが激しい注目度の高い仕手株の上昇局面の動きに捉われて、自分も勝てる気がする事から、確率等の理性的判断を超えてしまうとの論拠です。

他社の低ボラティリティ運用との比較ですが、多くの運用が高い金利感応度を持つ弱点を有しますが、アカディアンでは銘柄レベルで金利感応度を低め、金利上昇時に耐性を発揮する運用に努めています。また、多くのパッシブ運用では①混み合った最小分散点での割高な運用、②インデックスの銘柄組替え時には構成銘柄の事前発表に因り、ヘッジファンドに先回りされる等が散見されますが、アカディアンではアルファ情報を最小分散点に加味し、ベンチマーク外の魅力的銘柄の積極的組入れにより、インデックス組替えの影響の抑制、シャープ比向上と割高回避等、アクティブの強み発揮に努めております。 (ZUU online 編集部)