(写真=ZUU online編集部)

アカディアン・アセット・マネジメント LLCは、全世界で9兆1000億円の運用資産残高(2015年6月末現在)を誇る、世界有数の運用会社である。米ボストンに本拠を置く同社は、10年以上にわたり日本の機関投資家の運用を手掛けてきたが、より幅広いニーズに応えるために、日本での完全子会社であるアカディアン・アセット・マネジメント・ジャパンを設立、今年3月に60余名の機関投資家、証券会社を招いて東京オフィス開設披露を行った。同社の運用戦略の一つである、マネージド・ボラティリティとは、どのようなものか。また、この半年間で、日本を始めとする世界の株式市場のセンチメントに変化が見られるが、この状況を運用プロフェッショナルとして、どのように見ているのだろうか。アカディアン・アセット・マネジメント・ジャパンの日本における代表者の石井誠二氏に聞いた。

半年で100件を超える機関投資家等とのミーティング

−−貴社が3月3日に東京オフィス開設披露宴をされてから、6ヶ月が経過しました。まずは、この6ヶ月でどのような活動をされてきたか。また、その活動を通じて感じられたことをお聞かせください。

弊社にとって大切なクライアントである、企業年金や公的年金の運用責任者、或いは年金コンサルの方々とお会いしておりました。この半年でのミーティングはおよそ100件を超えましたが、なるべく多くの方々とお会いしたいと考えておりましたので、大変貴重で有意義な時間を過ごすことができました。また、金融機関や業界団体が主催するイベントにもスピーカーとして参加させて頂きました。

そうしたなかで、良い意味で驚いたのは、初対面にもかかわらず弊社のことを理解されている人が多かったことです。通常、初めてお会いする際には、私どもアカディアン・アセット・マネジメントの社歴や概要から紹介させて頂くことが多いのですが、東京オフィス披露宴の前からZUUonlineを始めとする多くのメディアで取り上げて頂いたり、内外のコンサルタント会社からの評価を聞かれておられたり、初対面でもスムーズにコミュニケーションをとることができました。メディアや評判の力の大きさを感じましたね。

プロフェッショナル運用とは、どのようなものか?

−−貴社の強みの一つに、価格変動を管理する「マネージド・ボラティリティ戦略」があります。これは日本では特に企業年金のニーズに非常にマッチしていると考えますが、彼らのリアクションはいかがでしたか?

8月下旬からのグローバル株式市場の軟調、ボラティリティの増大から、お蔭様で「マネージド・ボラティリティ戦略」に対する内外投資家の関心・需要は高まっております。

企業年金は最も重要なクライアントの一つであり、アカディアン・アセット・マネジメント LLCは、既に10年以上のお付き合いをさせて頂いているところも多いのですが、同時にこれから新たに長いお付き合いをさせて頂く企業年金との関係も深めたいと考えておりました。そのためにも大切なのは、運用に対する考え方を共有すること。この点については相当力を入れましたので、一定の評価を得たと確信しております。もちろん、同時に新しい課題も見えてきましたが。

−−運用に対する考え方を共有する、とは?

「アルファとは何か?」についての認識を共有することです。アルファの一つの考え方として、ファンドマネジャーの運用能力を計る指標、との解釈があります。つまり、ファンドマネジャーが、市場全体の動き(ベンチマーク)と連動しない投資行動によって得られた利益、それがアルファである、という考え方です。では、運用能力、投資行動とは具体的に何を指すのでしょうか?

かつて、アルファの源泉は定性的なファンドマネジャーが、一人の人間として有する独特の感性、センス、才能のようなもので、それが運用能力や投資行動の大きな差となって現れる、と考えられていた時期がありました。それが年月を経て定量的運用の開始とも相俟って、具体的な方法、法則などを系統立て、一つのまとまった理論体制を整えるなかで体系化されるわけです。弊社ではグローバル株式市場における30年近い経験を積み上げるなかで、このテーマにシステマチックな定量的運用者(クオンツ)として一貫して取り組んで参りました。

−−確かに、昔はカリスマ的な投資家やファンドマネジャーが脚光を浴びた時期がありました。現在も、そういった関連書籍が売れています。ただ、運用プロフェッショナルの世界では、ITが登場した辺りから、アルファの体系化が加速しましたね。そして、アルファの捉え方、考え方も多様化した印象を受けます。

そうですね。この30年で運用プロフェッショナルの世界は、大きく様変わりしました。それは、ある意味で、ファンドマネジャー個人の感性のみに運用結果が左右された時代から、統計物理学やビッグデータを駆使し、ルールベースで運用の客観化を指向する進化と言えます。そうした進化のなかで、クオンツ運用者が到達した結論を一言でいうと「喜怒哀楽を捨てる」というものでした。人間の感情が介在しない、システマチックで客観的かつ一貫した運用プロセスを構築し、実践することが重要なのです。

−−それは、換言するとルールを重視する、ということですか?

厳格にルールを守る、その一言に尽きます。確かに、ご指摘のようにアルファの解釈、考え方は多様化しているように思いますが、だからこそ弊社としては「アルファとは何か?」というテーマについて、クライアントと共通認識を持つことが大切と考えました。